脳は私たちの体や心をコントロールする司令塔です。でも、脳の血管が詰まったり破れたりすると、脳が故障してしまうことがあります。それが脳卒中という病気です。 脳卒中になると、どんなことが起こるかご存知でしょうか?手や足が動かなくなったり、口元がひきつったりすることはテレビや新聞で見たり聞いたりしたことがあるかもしれません。でも、それだけではありません。 実は、こんなことも起こるのです。 ・自分の体がどこにあるのかわからなくなる。 ・手足が自分のものだと感じられなくなる。 ・熱いものや冷たいものが感じられなくなる。 ・言葉が聞こえても意味がわからなくなる。 ・食べ物や飲み物が気道に入る。 ・足し算や引き算ができなくなる。 ・目が見えなくなったり、二重に見えたりする。 ・体や目の半分が消えてしまう。 ・昨日のことや今日のことが覚えられなくなる。 ・性格が変わってしまう。 ・目が覚めているのにぼんやりしてしまう。 ・やりたいことと違うことをしてしまう。 驚かれましたか?これらのことは、脳卒中で脳の機能が障害されたときに起こる症状なのです。これらの症状を「機能障害」と呼びます。この機能障害があると、生活に困ることが多くなります。
では、生活とはどんなことなのでしょう。 みなさんは「生活」という言葉にどんな意味があるか考えたことがありますか? 私たちは毎日当たり前のように生活していますが、実は生活というのはとても奥深いものなのです。 例えば、「起きる」「着替える」「トイレに行く」「顔を洗う」「歯を磨く」「髪をとかす」「ご飯を食べる」「お皿を洗う」「洗濯をする」「掃除をする」「買い物に行く」「仕事に行く」「友だちと話す」「お風呂に入る」などなど、これらはすべて生活の一部です。できなくなると、生活に困りますよね。このことを「能力障害」と呼びます。
脳卒中になった方の多くは、救急病院で命の危険を回避する治療を受けます。その後は、リハビリテーション病院に移って、リハビリテーションという特別な治療を受けます。回復期のリハビリテーションとは、機能障害や能力障害を改善することで障害を減らし、生活を送れるようにする治療です。 リハビリテーションは、脳卒中の発症から約半年間が最も効果的な時期です。この時期に一生懸命頑張ると、脳の回復力を最大限に引き出すことができます。そのためには、主治医や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家のアドバイスに従って、毎日コツコツと訓練を行うことが大切です。 訓練の内容は、人によって違います。手足の麻痺がある方は、筋力や関節の動きを回復するための運動をします。言葉が話せない方は、言葉の発音や理解を回復するための言語訓練をします。日常生活に必要な動作ができない方は、着替えや食事などの作業訓練をします。また、脳卒中によってできなくなったことを補うために、装具や器具を使うこともあります。 リハビリテーションは、一人で行うのではなく、チームで行うものです。チームには、主治医や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、ケアワーカー、義肢装具士、栄養士やソーシャルワーカーなどがいます。それぞれが自分の専門分野で患者様をサポートし、最適なリハビリテーションプログラムを提供します。もちろん、患者様やご家族の意見も大切にします。
現在の医療では、「麻痺の回復は6ヶ月で90%の人たちが上限を迎える」と言われています。でも、この6ヶ月というのは、手や足がどれだけ動くかという「うごき」の上限の話です。それでは、「うごき」って何でしょうか? 手や足をよく見てみてください。関節という部分がありますよね。関節とは、骨と骨がつながっているところです。例えば、足には股の関節、膝の関節、足首の関節、足指の関節があります。これらの関節を自分で動かせるかどうかが「うごき」です。 リハビリテーション病院に入院している人たちの話を聞いてみましょう。 Eさんは、「最初は足が全然動かなかったけど、今は股と膝は動くようになった。でも足首や指はまだ動かないんだ」と言っています。 Fさんは、「入院した時は股と膝は動いていたけど、足首はぶらぶらしていた。でも今は足首も動くようになった。でもまだ力が足りなくて、装具という道具をつけないと歩けないんだ」と言っています。 Gさんは、「入院した時から足は動いていたけど、ぎこちなくて歩きにくかった。途中で装具をつけてみたら、もっと歩きやすくなった。今は装具もいらなくて、普通に歩けるようになった」と言っています。 このように、人によって「うごき」の程度は違います。でも、6ヶ月が過ぎたら「うごき」はもう変わらないのでしょうか? 前回のnoteで答えは「違う」とお伝えしましたが、覚えていますか? 6ヶ月の目安は「うごき」だけで、それ以外にも大切なことがあります。それは、「能力回復」です。「能力回復」とは、日常生活で必要なことができるようになることです。例えば、歩くことや階段を上り下りすることです。これらのことは、「うごき」だけではなく、筋力やバランス感覚や協調性などが必要です。「能力回復」は、「うごき」の上限に関係なく、続けてリハビリテーションをすることで向上する可能性があります。
脳卒中リハビリテーションの父である石川誠さん(初台リハビリテーション病院の創設者)は、脳卒中になって3年経てば「脳卒中のベテラン選手」と言っています。つまり、脳卒中になっても、3年間頑張ってリハビリテーションを続ければ、自分の力で生活できるようになるということです。多くの脳卒中患者さんが元気になっています。 「能力回復」については、次の項で詳しく解説いたします。どんなリハビリテーションがあるのか、ぜひご覧ください。 最後までお読みいただきありがとうございました。この記事が、脳卒中患者様やそのご家族の方々のお役に立てれば幸いです。次回もお楽しみに!
脳卒中メモ。 「機能障害」は手足の麻痺や思考の混乱などのこと。 「能力障害」は日常生活に支障をきたすこと。
石川誠さんメモ。 医師の決意が国を動かした。あるリハビリ病院が起こした奇跡 - ライブドアニュース https://news.livedoor.com/article/detail/13287219/
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