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自転車の音とランドセルが揺れる音。外の世界と安心して共存するための、心と体を守る優しい工夫

  • 17 時間前
  • 読了時間: 5分

自転車の音とランドセルが揺れる音。外の世界と安心して共存するための、心と体を守る優しい工夫

玄関のドアを開けるだけで、莫大な勇気とエネルギーがいる

玄関の重いドアをそっと押し開けて、外の空気を胸いっぱいに吸い込み、杖を突いて最初の一歩を踏み出す。


ただそれだけのことが、どれほどの勇気を必要とし、どれほどの莫大なエネルギーを使うか。


外を歩く健康な人たちは、その現実をほとんど知りません。リハビリ室の平らで静かな床とは違い、一歩外へ出ればそこは予測不能なことの連続です。


ほんのわずかな道端の傾斜や、デコボコとした古いアスファルト。それだけでも十分に足元はすくみ、常に全身の筋肉に緊張を強いられる過酷な環境です。


そんな日常の戦いの中で、ひときわ心臓が縮み上がるような、底知れぬ恐怖を感じる瞬間があります。


それは、背後から突然近づいてくる自転車の気配や、走り抜ける子供たちの気配です。


あたりがうす暗い早朝や夜間の道。後ろから突然、自転車のタイヤが回る音や、ブレーキの軋む音が耳に飛び込んできます。


姿が見えない中でのその機械音は、それだけで体をこわばらせる恐怖の引き金になります。


愛おしいはずの笑い声が怖い

そして、夕暮れ時の歩道。遠くから響いてくる、子供たちの賑やかな声。走り抜ける足音に合わせて、ランドセルにつけられたたくさんのアクセサリーがカチャカチャ、チャリンチャリンと鳴る音。


右へ行くのか、左へ行くのか見当もつかない無邪気な動きに、「もしぶつかられたら、確実に倒れる」という圧倒的な無力感が、足の先から頭のてっぺんまで駆け巡ります。


頭の中では「危ない、よけなきゃ」と警報が鳴り響いているのに、足は地面に張り付いたようにすくんで前に出ない。ギリギリを通り過ぎる相手の風圧を肌で感じながら、ただ立ち尽くすもどかしさと強烈な恐怖。


本来であれば、子供たちの笑い声は、とても平和で愛おしい日常の風景です。


それなのに、今の自分にとっては恐ろしいものに感じられる。そんなご自身の心の変化に、戸惑いを覚えることもあるかもしれません。


ですが、それは経験した人にしかわからない、命の危険すら感じるリアルな日常の光景なのです。


どうか、その恐怖を感じるご自身を責めないでください。


ルールは変わりつつある、でも生活圏の現実はまだ変わっていない

ルールは変わりつつある、でも生活圏の現実はまだ変わっていない

社会という大きなマクロの視点で見れば、状況は少しずつ変化の兆しを見せています。


2026年から、自転車は原則として歩道を通らないというルールがより細かく運用されるようになりました。


しかし、現実のミクロな生活圏に目を向けると、すべての環境から一瞬にして自転車が歩道を走る状況が消え去ったわけではありません。


だからといって、その外の世界をただ恐れて、家に閉じこもり続ける必要はありません。私たちが目指すのは、ルールが過渡期にある社会の中で、いかにして日常の風景と上手に共存し、ご自身の足で歩き続けるかという、優しい工夫を見つけることです。


恐怖を「安全な状態で知る」ことが出発点

私は、これまで外の世界へ踏み出すことに戸惑い、恐怖を抱える患者さんやご家族から、本当にたくさんのご相談を受けてきました。


通常の医療保険や介護保険のリハビリでは、日中の明るく安全な場所での訓練が中心になります。


早朝や夜間の暗闇を歩くことや、自転車の音やランドセルの揺れる音にどう立ち向かうか。


そうした生活に直結する生々しい訓練は、制度の枠組み上、どうしても行うのが難しい現状があります。


保険の枠を超えたリハビリの形を共に歩み、時間や場所を問わず、様々な環境で患者様のリアルな暮らしをご一緒してきたからこそ、お伝えできる現実があります。


まず一番大切なのは、「いきなり自分の足で外を歩かなくてもいい」ということです。


まずは車椅子に乗って、ご自身の足で歩くという負担を下ろした状態で、外の環境に触れる時間を作ります。


実は、車椅子に乗って外に出るだけでも、十分すぎるほど立派な訓練になります。


歩いている時よりも目線が下がり、ご自身で体を操作できない状態での移動は、シートベルトのない車に乗っているようなものです。


背後から自転車が向かってくる風圧。子供たちのランドセルのアクセサリーが鳴る音。


車椅子に乗ってその恐怖を安全な状態で体験し、「病気になってから見える外の世界」をまずは知ることが、全ての出発点になります。


立ち止まって構えることが最も確実な身の守り方

立ち止まって構えることが最も確実な身の守り方

その恐怖と現実を知った上で、では実際に外を歩くまでにどんな練習が必要かを、担当の理学療法士と相談して決めていきます。


バランスをとる練習や、歩く速さを変える練習を安全な場所で積み重ね、そしていざ、実際の歩きの場面にチャレンジします。


外を歩いていて、予測不能な音が近づいてきたとき、最も確実で安全な身の守り方は、「立ち止まって、構える」ことです。


焦ってよけようとする素早い動きこそが、麻痺側の手や足のつっぱりを誘発し、重心を崩す原因になります。


音が聞こえたら、まず立ち止まる。この「立ち止まって構える」という動作も、ぜひ理学療法士と一緒に練習してみてください。


万が一、軽く人がぶつかったとしても倒れにくい、素晴らしいバランスの立ち方や、構え方のコツが必ずあります。


病気を経験した後の体は、ただでさえ重心の揺れに対する反応が遅れます。


頭でわかっていても、足がすくむのは当然のことです。だからこそ、うまくよけられないご自身を責めず、事前にできる「構え」を身につけておくのです。


社会の常識やスピードに急き立てられず、ご自身の尊厳を真ん中に置いて、できる準備を一つずつ重ねていきましょう。


今日、暗闇の道を安全に歩き抜くためのお守りが、明日のあなたの暮らしを少しだけ広げてくれます。


私たちはあなたの絶対的な味方として、その見えない頑張りをいつでもすぐそばで心から応援しています。


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