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【病態別】第8回:前頭葉の出血・梗塞 性格が変わった?見えない障害と闘うご家族へ

  • 3月6日
  • 読了時間: 6分

更新日:3月27日


はじめに:怠けているのではありません。脳がそうさせているのです

はじめに:怠けているのではありません。脳がそうさせているのです

病態別にお話しする連載の第8回目は、おでこの奥にある大きな脳の領域、前頭葉(ぜんとうよう)のダメージについて取り上げます。


手足の麻痺は少しずつ良くなり、無事に退院の日を迎えることができた。


それなのに、家に帰ってからの様子がなんだかおかしい。


一日中ぼーっとテレビを見ているだけで、自分からは何もしようとしない。


ちょっとしたことで急に激高し、大声を荒げる。


これまで当たり前にできていた料理の段取りが全く組めず、パニックに陥る。


まるで別人のように性格が変わった姿を見て、ご家族は深く傷つき、どう接していいか分からなくなることが多くあります。


なんで怠けているの。


昔はあんなに優しくて、気配りのできる人だったのに。


そんな行き場のない悲しみを抱えるご家族に、お伝えしたいことがあります。


ご本人は決して、わざとやっているわけではありません。


性格が悪くなったわけでも、怠けているわけでもないのです。


前頭葉という場所が傷ついたことで、心と行動をコントロールする機能が、お休みしている状態なのです。


  1. 前頭葉の役割:人間の心と理性の総支配人


以前のブログで、脳のさまざまな情報を集めて手足に伝える司令塔は視床だとお話ししました。


それに対して、おでこの奥にある前頭葉という場所は、人間の人間らしさ、つまり心と理性をまとめる総支配人のような場所です。


今、何をすべきか計画を立てる。衝動や怒りをグッとこらえて、相手の気持ちを思いやる。


自分から何かを始めようと、意欲を燃やす。これらを司るのが前頭葉です。


ここがダメージを受けると、手足は元気に動いたとしても、総支配人からの的確な指示やストップが、全くかからなくなります。


その結果、本能や感情がむき出しになったり、逆に無気力になったりするのです。


  1. 見えない障害が引き起こす、3つの悲しきすれ違い

見えない障害が引き起こす、3つの悲しきすれ違い

前頭葉が傷つくことで、生活の中で主に次のような問題が起こります。


これは高次脳機能障害と呼ばれる、外からは見えにくい症状です。


(1) 心のアクセルが踏めない(発動性の低下・意欲の低下)


自分から何かをしようとする、心のエンジンがかからなくなります。


声をかければ動くけれど、放っておくと一日中ソファに座ったまま。趣味にも関心を示さなくなります。


これが、ご家族には怠けている、やる気がないと一番誤解されやすい症状です。


(2) 感情のブレーキが効かない(易怒性・感情のコントロール低下)


普通なら、ここで怒ったらまずいな、と理性が働く場面でも、そのブレーキが壊れているため、反射的に怒りを爆発させます。


また、急に大声で泣き出すなど、感情の波が激しくなります。


(3) 段取りが組めない(遂行機能障害)


冷蔵庫を開けて、何を作ろうか考え、同時に火を使う。


私たちが当たり前にやっている料理や家事は、前頭葉の高度な情報処理のおかげです。


これができなくなるため、同じものを何個も買ってきたり、複数の作業を同時にこなせずパニックになって、途中で投げ出したりします。


  1. 早期退院の現実と、家で初めて直面する本当の姿


出血や梗塞の範囲が限られている場合、手足は比較的動きやすく、病院の歩行や動作のテストでも良い成績が出ます。


身体が動きやすい分だけ入院期間は短く設定され、後はお家の暮らしの中で、徐々に改善を図っていきましょうと早期に退院となることが少なくありません。


もちろん、退院前に医療機関から病気についての説明はあるはずです。


しかし、この見えない障害の本当の恐ろしさは、病院という守られた環境ではなく、実際の複雑な生活に戻って初めてはっきりと姿を現すところにあります。


家に帰ってから、家族は別人のようになった姿に直面し、どう対応していいか分からず途方に暮れるのです。


周りからは元気そうに見えるため、誰にもその辛さを分かってもらえず、ご家族は先の見えない介護の中で孤立状態に陥ります。


  1. 家族にしかできない役割と、誤解を防ぐ知恵


性格が変わった、怒りっぽくなった、意欲がなくなった。


そうした姿を目の当たりにしても、どうかこの人自身が変わったわけではない。


これは病気の影響なんだという心持ちを忘れないでください。


前頭葉の回復には、年単位の長い時間がかかります。だからこそ、ご家族には長い目で寄り添うお気持ちを持っていただきたいのです。


そして、ここでご家族にしかできない、とても重要な役割があります。


それは、もともとはこういう優しい性格だった、以前はこういうことが好きだったという本来の姿を、地域の支援チームにしっかり伝えていただくことです。


在宅介護において、デイサービスやヘルパーさんなどのスタッフは大切な存在ですが、中にはこうした見えない脳の障害について経験が浅い方もいらっしゃいます。


そうしたスタッフから見ると、意欲が湧かないご本人に対して、ご家族が無理やりサービスを押し付けているように誤解されることがあるのです。


ご家族はご本人のためを思って一生懸命なだけなのに、支援者からマイナスな印象を持たれるのは、あまりにも理不尽で損なことです。


だからこそ、もともとはこういう人です。今は病気の影響でお休みしている状態なのですとあらかじめ伝えておく。


これが、ご家族自身が地域で誤解されず、円滑にサポートを受け続けるための大切な防衛策になります。


  1. 環境を優しく整え、失敗しない手順を一緒に探す

環境を優しく整え、失敗しない手順を一緒に探す

こうした状況に対し、ベテランの専門家は、決して正論でぶつかったり、無理に頑張らせたりはしません。


壊れたブレーキを責めるのではなく、生活の環境そのものを、ご本人に合わせて極限まで優しく整えていきます。


一度にたくさんの指示を出すと脳が混乱するため、お茶碗を並べてね、という1つの短いお願いだけをする。


できないことを嘆くのではなく、どうすれば失敗せずに、笑顔でできる環境を作れるかを徹底的に考え、ご家族と一緒に生活の中の違和感を調整していくのです。


おわりに:あなたは、決して一人ではありません


つい大声で怒った自分を責め、激しい自己嫌悪に陥る夜もあるでしょう。


でも、どうかご自身を責めないでください。これは病気が引き起こしていることであり、誰のせいでもありません。


絶望の淵にいるときこそ、地域の専門職を頼ってください。


ご本人がパニックに陥ったとき、しっかりと盾になります。


ゆっくりと、焦らずに。


1年、2年と暮らしを積み上げていく中で、ご本人の表情や判断に、あ、昔の姿が戻ってきたと感じられる瞬間が訪れます。


その時の喜びは、何にも代えがたいものです。


新しい家族の形を、私たちが全力でサポートしながら、一緒に、温かく見つけていきましょう。


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