お盆の帰省と片麻痺 〜心配なのは、連休が終わったあとです〜
- 4 日前
- 読了時間: 5分

新幹線や車を降りて、実家の玄関を開ける。おかえり、と出てくる親の姿を見た瞬間に、あれ、と思う。半年前と歩き方が違う気がする。お盆になると、こうしたご相談が増えます。
電話で伝わるのは声の調子だけで、歩き方は声には出ません。ご本人も、つまずくようになったとはわざわざ言いません。だから、朝から晩まで一緒にいられる数日は貴重です。
見るのは、この五つで十分です

専門の道具は要りません。歩く速さ、歩幅、つまずき、方向転換、椅子からの立ち上がり。玄関から居間まで前より時間がかかる。敷居でつま先が引っかかる。振り向くとふらつく。
大事なのは、前と比べてどうか、その変化はいつからか、の二つです。いつからかが分かると、次にすることが決まります。
歩きが変わった理由は、ひとつではありません
理由は大きく三つです。夏の暮らしそのもの。新しく脳卒中が起きている場合。薬やほかの体の事情。見分けの軸になるのは、急に変わったのか、じわじわ変わったのかです。
いま症状が出ているなら、迷わず救急車を呼んでください。いずれも突然起こるのが特徴です。笑ってもらうと、口や顔の片方がゆがむ。片方の腕、または片方の足に、急に力が入らない。片側にしびれが出た。ろれつが回らない、言葉が出ない、こちらの言うことが通じない。片方の目が見えない、物が二重に見える、見える範囲が欠ける。力はあるのに立てない、歩けない。支えなしでは立っていられないほど、急にふらつく。経験したことのない激しい頭痛がする。返事がない、もうろうとしている。
ひとつでも当てはまれば、119番です。そのとき、症状が出た時刻を控えてください。分からなければ、最後に普段どおりだった時刻でかまいません。脳の治療は、時間によって選べる手が変わります。早く着くほど、選べる手が残っています。
呼ぶかどうか迷ったときは、救急安心センター事業の#7119でも相談できます。ただし、上の症状が出ているなら、迷う前に119番です。
症状が治まっていても、前と明らかに違うなら様子見にはせず、早めに主治医へ連絡してください。これは脳卒中です、と決めるのはご家族の仕事ではありません。気づいて、伝えるところまでで十分です。
本人が大丈夫と言うのは、嘘ではありません
歩きの変化は、毎日ほんの少しずつ進みます。昨日と今日の差は、ご本人にはまず分かりません。半年ぶりに会うご家族にだけ、その差が見えます。隠しているのでも、意地を張っているのでもなく、本当に気づいていないのです。
お盆は、これから始まる連休でもあります

ここからが、今日いちばんお伝えしたいことです。家の中でふだんどおりに暮らせている、というのは、余裕がある状態とはかぎりません。ギリギリの体力で毎日を回している方は少なくありません。だから数日寝込んだり、休みが続いたりすると、あっという間にマイナスに傾き、つまずきや歩きにくさが出てきます。年末年始やゴールデンウィークのあと、こうしたご相談は増えます。統計を取ったわけではありませんが、現場で繰り返し見てきたことです。
帰省したご家族が見ているのは、連休が始まる前の姿です。心配なのは、むしろこれからです。お盆はデイサービスも訪問リハビリも通院先も休みに入り、体を動かす予定がまとめて抜けます。
帰省中に、休みのあいだの過ごし方まで一緒に決めておいてください。朝は何時に起きるか。日に一度はどこまで出るか。誰がいつ電話をするか。予定を一つ置いておくだけで、抜ける分は少なくなります。
散歩に付き合うなら、立ち座りと階段も足してください
危ないよ。ひとりで動かないで。心配から出た言葉ですが、受け取る側には、できなくなったね、と聞こえます。代わりに、最近どのへんが歩きにくい? いつごろから? と聞いてみてください。
一緒にやる形も効きます。散歩に付き合ってよ、私も足がなまっているから。ただ、散歩だけで終わらせないでください。歩くのは水平の移動です。それだけでは暮らしの余力は作りにくく、鍵になるのは上下の動きです。椅子から立って、また座る。手すりのある階段をゆっくり上る。この重心の三次元の移動が水平の移動と組み合わさることが、生活の体力の土台になる。私は現場でそう考えて組み立てています。ただし、上ったら必ず下ります。下りのほうが危ないので、階段はご家族がそばにいるときだけにしてください。ふらつく、痛みが出る、息が切れる。どれかが出たら、その日はそこで終わりにしてください。回数は課さず、その日にできる範囲で。何をどこまでやってよいかは人によって違います。始める前に、担当の理学療法士やケアマネジャーに一度ご確認ください。
水分も見てください。ただし、年齢を重ねると皮膚の張りは落ちるので、手の甲をつまむやり方では、水分が足りているかどうかは判断できません。のどの渇きも同じです。見るのは暮らしのほうです。一日にどれくらい飲んでいるか。トイレの回数が減っていないか。食が細くなっていないか。日中うとうとしている時間が増えていないか。いつもと違うと感じたら、かかりつけにご相談ください。
帰る前に、連絡先をひとつ持って帰ってください
急な変化のときは、連絡先を探すより先に119番です。そのうえで、落ち着いているときのための連絡先を一つ。ケアマネジャー、担当の理学療法士、主治医。誰か一人でいいので控えて帰り、帰省中に一度電話をして、気になった変化と連休の過ごし方を伝えておいてください。
お盆の数日ですべてが分かるわけではありません。それでも、五つの見どころと、いつからという時間の軸。連休の予定をひとつと、連絡先をひとつ。これだけ持ち帰れば、離れていてもできることは増えます。
親の歩きが少し変わっていたとしても、それは終わりの合図ではありません。気づいた人がいるというのは、そこから動き出せるということです。
不安なときは、いつでも私たちを頼ってください。科学的な視点と、あなたに寄り添う心で、すぐそばで応援し続けます。
▶無料 脳卒中リハビリ相談 「NIDE脳卒中リハコンサルティング」 のご案内
▶「NIDE脳卒中歩行アカデミー」 のご案内
▶書籍 『親が脳卒中になったとき 家族が最初に読む本』 のご案内
2026年7月 Amazonベストセラー1位(リハビリテーション医学部門)。
離れて暮らす家族のための一冊。あなたにできることは、ちゃんとあります。思ったよりずっと、たくさん。






コメント