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「片麻痺って治るの?」⑤ 〜機能回復?能力回復ってなんなのさ?聞いたことないぞ!〜 <後編>


Pさんは「動きが良くならないのに出来ることが増えるって意味わからん。 動きが良くならないと、歩けないし、トイレやお風呂なんて無理でしょ! けしからん話だよ。」と言っています。 おっしゃる通りですね。確かに昔は世界の医療もそうでした。 手足が動いて歩けるようになり、社会に復帰できる。 こんなストーリーで治療を進めていました。 しかも、「無理せず安静に」と。 その昔、リハビリは温泉でじっくりと治すなんて聞いたことないですか? 今も名残が残ってますよね。 「湯治」って。 効能のある温泉に入って血行を良くしてマッサージして治す。 これがスタンダードでした。

リハビリ職の国家資格は昭和40年代にできました。 国家資格発足時は人材難。 当時は特例で鍼灸マッサージ師が療法士になっていたそうです。 その後、医師を目指しいた方々が療法士になり、動かない手足をいかに動かしたら良いか。 良い治療法を切磋琢磨して考える時代になり、上記の流れを形成していきました。 この頃リハビリの父、石川誠さんが脳外科医として登場します。 彼は名医、優れたメスさばきで脳卒中患者の命を次々と助けていきます。 ある時、命を救ったけれども植物状態で寝たきりになった患者さんがいました。 先輩ドクターに言われたそうです。 「この患者は君が一生面倒を見るんだな」と。 石川さんは、「寝たきり製造機になっていた」と考え、ここから大きく舵を切ることになりました。  「華の脳外科医からメスを置きリハビリ医」へ。 周りからは相当に変わり者扱いされたようです。 リハビリ医になった彼は、次々と日本の医療を変えていきます。 ・寝たきりゼロ。 ・閉じこもりゼロ。 ・安静は害だ。 ・マッサージで歩けるようにならない。 ・訓練室のリハビリは実生活で役にたたない、生活の場でリハビリせよ。 ・1日10000歩。 ・損得なしに汗をかきなさい。 などなど挙げきれません。 その後、彼は国を変えました。 2000年、介護保険制度と同じくして回復期リハビリテーション制度発足。 ここから20年に渡り、日本リハビリの世界的大躍進と肥大化による質の低下が謳われはじめます。

横道にそれました…。

時を同じくして2001年、新型コロナウィルスでお馴染みのWHO(世界保健機関)が医療の流れを変えることになります。 ICIDHからICFへ。※下で解説しています。 簡単に解説すると 「手足が動いて歩けるようになれば社会に復帰できる。」時代から「手足が動かなくて歩けなくても社会に復帰できる。」時代に変わりました。 これは、まことに画期的な考え方でした。 動かせなくても社会に戻れるんです。 キーワードは「代替機能」です。 例えば、右麻痺のVさんは以下の様に暮らしてます。 ・寝返りは左手足の力とベッドの柵を利用してます。 ・服の左袖調整は口でやってます。 ・右足首が動かないところは装具で補い歩いてます。 ・ペンは利き手を変え左で書いています。 ・パソコンは左手で全てをこなしています。 など。 代わりにできること補うやり方です。 長所を伸ばす。 苦手なところは他に頼む。 今の教育に共する感じもしますよね。 「代替機能」によって手足が思うように動かなくても、食事をする、顔を洗う、着替える、用をたす、お風呂に入る、移動する、コミュニケーショ運を取ることができる様になるのです。 いよいよ次の項から、出来ることを増やす方法を解説していきます。 最後までお読み頂きありがとうございました。

※ICIDHICFという二つの分類法について説明します。 ICIDHとは、国際障害分類というもので、1980年にWHO(世界保健機関)が作りました。この分類法では、身体の動きや感覚などが悪くなることを「機能不全」と言い、日常生活や仕事などができなくなることを「能力低下」と言い、社会的に困ることを「社会的不利」と言っています。例えば、右手が動かなくなった人は、「機能不全」として右手の動きが悪くなったこと、「能力低下」として食事や着替えなどができなくなったこと、「社会的不利」として仕事や趣味に支障が出たことを把握します。そして、リハビリテーションでは、「機能不全」を改善することが目標になります。「機能回復」とは、「機能不全」を改善することです。 しかし、この分類法には問題点がありました。それは、障害のマイナス面だけに注目していることです。障害があるからといって、すべての人が同じように生活に困るわけではありません。人によっては、障害を持ちながらも自分らしく楽しく生活している人もいます。また、障害があるからといって、すべての原因がその人の身体にあるわけでもありません。周りの環境や社会の仕組みも影響しています。例えば、車椅子で移動する人は、スロープやエレベーターがあれば問題ありませんが、階段や段差が多ければ困難です。このように、障害は一方的なものではなく、個人と環境との関係で変わるものだと考えられるようになりました。 そこで登場したのがICFです。ICFとは、国際生活機能分類というもので、2001年にWHOが作りました 。この分類法では、心身機能・身体構造・活動・参加・環境因子・個人因子という六つの要素を使って、人間の生活機能と障害を捉えます。例えば、右手が動かなくなった人は、心身機能・身体構造として右手の動きや感覚が低下したこと、活動・参加として食事や着替えや仕事や趣味などで困難さを感じたこと、環境因子として家族や友人や医療者などのサポートや道具や設備などの利用の有無や質、個人因子として年齢や性別や性格や価値観などの特徴を把握します。そして、リハビリテーションでは、心身機能・身体構造を改善するだけでなく、活動・参加を増やすために環境因子や個人因子にも配慮することが目標になります。「能力回復」とは、「活動・参加」を増やすことです。 このように、ICFは障害のプラス面も見て、生活の全体像を広い視点から総合的に理解することを目指しています。そして、障害があっても社会に参加できるように支援することを重視しています。これは、障害者の人権や尊厳を守るために必要な考え方です。


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