Dさんは51歳の男性で、妻と4人の子供(大学生2人、高校生1人、中学生1人)と仲良く暮らしていました。仕事は忙しかったけれど、家族のためにがんばっていました。仕事帰りには友達とビールを飲んでリラックスしていました。家では子供たちの成長を見守っていました。あと15年で住宅ローンが終わることを楽しみにしていました。週末は妻と一緒に子供たちの部活動を応援しに行っていました。毎年の健康診断では中性脂肪や血圧が高めだったけれど、気にしないでいました。 ある夏の暑い日、Dさんは会社で突然倒れてしまいました。心臓から血液中の塊が脳に流れ込んで血管を詰まらせてしまったのです。これを心原性脳塞栓と言います。Dさんは左半身が動かなくなってしまいました。 Dさんの妻は病院へ急ぎました。医師からDさんの状態を聞きました。「ご主人は心原性脳塞栓で左半身に麻痺があります。麻痺というのは、筋肉が動かせなくなることです。感覚障害もあります。感覚障害というのは、左半身に触られても分からなかったり、痛みや温度を感じなかったりすることです。また高次脳機能障害もあります。高次脳機能障害というのは、左側の空間や物に気づきにくかったり、集中力や記憶力が低下したりすることです」と医師は言いました。妻はその言葉を聞いても信じられませんでした。
Dさんは命は助かりましたが、入院することになりました。その後、「H回復期リハビリテーション病院」へ移りました。そこでは日常生活や社会復帰に向けてリハビリテーションを受けることができます。 H病院では色々なスタッフがDさんをサポートしてくれます。医師や看護師だけでなく、理学療法士や作業療法士などもいます。理学療法士は体の動きや筋力をチェックします。作業療法士は日常生活動作や手先の動きをチェックします。言語聴覚士は話すことや聞くこと、飲み込むことをチェックします。それぞれの専門家がDさんの状態を把握して、リハビリテーションの計画を立ててくれます。 Dさんは4人部屋に入りましたが、部屋は広くて快適でした。窓からはきれいな景色が見えました。ベッドの横にはロッカーやテレビ置き場がありました。ベッドの柵には手すりがついていて、体を起こすときに使えます。 昼になると、看護師さんが食事に誘ってくれました。食堂に行くと、他の患者さんたちも集まっていました。Dさんは車椅子で移動しました。食事の席では左側に座るように言われました。これは左側の空間に気づきやすくするためです。Dさんは右利きなのでお箸を使うことができましたが、左手は力が入って曲がったままでした。作業療法士さんが左手をテーブルに置いてくれました。これは左手に刺激を与えるためです。言語聴覚士さんも飲み込みの様子を見てくれました。これは誤嚥(ごえん)という食べ物や飲み物が気管に入ってしまうことを防ぐためです。Dさんは食欲もありそうでしたが、左側の食器には手を伸ばしませんでした。作業療法士さんが左側から声をかけてくれましたが、Dさんは反応しませんでした。これは高次脳機能障害のせいです。 昼食後、主治医から説明を受けました。「Dさんは心原性脳塞栓で左半身に麻痺があります。麻痺や感覚障害、高次脳機能障害は回復する可能性もありますが、時間がかかる場合もあります」と医師は言いました。「回復するためにはどうすればいいですか?」と妻は尋ねました。「回復するためにはリハビリテーションが必要です。リハビリテーションというのは、体や脳の働きを改善する訓練です。リハビリテーションでは、機能回復と能力回復という二つの目的があります」と医師は答えました。 「機能回復と能力回復って何ですか?」と妻は聞き返しました。「機能回復というのは、麻痺や感覚障害などの原因を取り除いて元通りにすることです。例えば、筋力や関節可動域を増やしたり、神経伝達を促したりすることです。能力回復というのは、機能回復が難しい場合でも、残っている能力を最大限に活用して日常生活や社会生活を送ることができるようにすることです。例えば、装具や杖を使って歩いたり、左手を使って食事をしたりすることです。機能回復と能力回復は同時に行うことができますが、機能回復には限界がある場合もあります。その場合は能力回復に重点を置いていきます」と医師は説明してくれました。「では、Dさんの場合はどうなりますか?」と妻は尋ねました。「Dさんの場合は、まずは日常生活を自立できるようにすることが目標です。そのためには、自分で起きられるようになることが大切です。起きられるようになれば、寝たきりになるリスクを減らすことができます。また、歩けるようになるために装具を作りましょう。装具というのは、麻痺した足の形や動きを補正してくれる道具です。装具をつければ、転倒の危険性を減らすことができます。3から4ヶ月後には杖を使って歩けるようになり、トイレの使用も自立できるようになるかもしれません。その後は社会復帰も視野に入れていきましょう」と医師は言いました。 妻は医師の言葉に驚きました。Dさんは自分で起きられないの…。あんなに運動が得意で、仕事も優秀だったのに…。この先、どうなるのだろう。子供たちの学費もあるし。 でも、妻は諦めませんでした。Dさんが元気になることを信じていました。 翌日からDさんはリハビリテーションに取り組みました。理学療法士さんから寝返りや起き上がりの方法を教えてもらいました。寝返りや起き上がりは簡単な動作のように見えますが、実際にやってみると難しいです。Dさんは必死で訓練しましたが、体が重くて思うように動かせませんでした。左手や左足も感じなかったり痛かったりして苦労しました。 妻はDさんのリハビリテーションを見学しました。Dさんが寝返りや起き上がりをする姿を見て、笑ってしまいそうになりました。失礼ながら、芋虫みたいだなと思いました。 一方、Dさんは必死です。なぜ寝返りができないのか。体が重くて動くと左肩の辺りが痛く、左足も痛みを感じます。理学療法士さんが左手を触ってと言いますが、どこにあるのか分かりません。俺の左手はどこに行ってしまったんだろう。次は左足です。なんとか右足で触ることはできますが、触られた感覚がありません。いつの間にか夜中に誰かの腕が顔に乗っかり、邪魔だと退けたら自分の腕だったという経験があります。それに似ています。寝返りの方法なんて考えたこともありませんでした。今まで無意識だったのです。理学療法士さんから寝返りや起き上がりの方法を教えていただきましたが、体が重く隣にもう一人居るみたいです。子供たちが小さい頃、背中に4人のチビを乗せて腕立て伏せをしているような感じです。これは大変だ。
Dさん、頑張ってますね!!今後に期待しましょう!!
以下に寝返り、起き上がりの方法を記します。参考になれば幸いです。
<寝返りの方法>
①右手で左肩を触り、なぞるようにして左肘をおへそに持ってきます。
②右足は左膝からなぞるようにして足首の後ろに置きます(アキレス腱の辺り)。
③右手でベッドの手すりを逆手に持ちます。
④右足首で左右の膝を曲げて腰をひねります。
⑤顔は右に向けて右手を見ます。
⑥右手と体を捻って上半身を右に向けます。
⑦横向きになったとき、おへそがやや下向きになるくらいがちょうどいいです。
※多くのの理学療法士が知らないポイントは①②⑦です。
<起き上がりの方法>
①右足首で左足を助けながら、膝から下をベッドから下ろします。
②右脇を少し空けてベッドの柵を順手に持ち替えます。
③右手の力を使って顔をあげ、あごを右手の甲にのせます。
④右手を腕立て伏せのように力を入れて、体を起こします。
⑤体を真っ直ぐにして、両足の裏を床につけます。
※多くのの理学療法士が知らないポイントは②③です。
イメージできるよう動画を添付しました。モデルは、私の同級生で右片麻痺です。動画は、起居動作に加えて横になる方法も撮影しました。また、患者目線独自のアイデアも収録しています。ご覧くださいませ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。脳卒中になった方やその家族の方々へ、このnoteではリハビリテーションの方法や効果を分かりやすく紹介しています。
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