これまで、この連載では「被殻」や「視床」といった、脳卒中で比較的多く耳にする部位について解説してきました。これらは出血や梗塞の好発部位であり、麻痺や感覚障害に直結する場所です。

しかし、実際にはそれ以外の「さらに深い場所」がダメージを受け、症状に戸惑うケースも少なくありません。

「麻痺は軽いと言われたのに、なぜか自分から動こうとしない」 「急に手足が勝手に動く(不随意運動)」 「体が異常に固くなって、思うように動かせない」

これらの症状は、一般的なインターネットの検索ではなかなか明確な答えに辿り着けません。

今回は、大脳基底核という括りの中でも、特に「影の主役」である部位にスポットを当て、その役割とリハビリの考え方を紐解いていきます。

1.尾状核(びじょうかく):意欲を司る「心のエンジン」とサポーターの力加減

尾状核は、運動のコントロールだけでなく、人間の「意欲」や「計画性」に深く関わっています。

ここは、脳の中で「報酬」や「やる気」を処理する回路の重要な中継地点です。

ここが損傷を受けると、たとえ手足に強い麻痺がなくても、「自分から動こうとするエネルギー」が湧きにくい状態に陥ります。

これは専門用語で「アパシー(意欲減退)」と呼びます。

この状態を支えるご家族やパートナーのサポートは不可欠ですが、全身全霊を込めて向き合い続けると、どうしても息切れが起きます。

パートナーやご家族は全力の4割程度の力で、ときには深呼吸をしながら関わることがコツです。

また、社会とのつながりを維持しつつ、長期的な視点を持つことで、少しずつコントロールができるようになっていきます。

2.淡蒼球(たんそうきゅう):動きを整える「精密なブレーキ」と日常の工夫

2.淡蒼球(たんそうきゅう):動きを整える「精密なブレーキ」と日常の工夫

淡蒼球は、筋肉の緊張(トーン)を絶妙な加減で調整する役割を持っています。

普段、無意識のうちに適切な筋肉に力を入れ、不要な筋肉の力を抜く「引き算の調整」を行っているのが淡蒼球です。

ここがダメージを受けると、ブレーキが効きすぎて体がカチカチに固まる(筋固縮)、あるいはブレーキが外れて奇妙な姿勢(ジストニア)を保持するといった現象が起こります。

リハビリにおいては、単なる筋力トレーニングではなく、荷重(体重をかけること)の加減や動かし方の工夫が必要です。

日常生活の中でどのように荷重をコントロールするか。

その具体的な方法については、理学療法士による専門的なトレーニング方法が存在します。

専門家に相談しながら、生活の中での動かし方を工夫していくことが、緊張を和らげる近道になります。

3.視床下核・黒質:リズムの司令塔と「動作の計算」

視床下核や黒質は、動作の「リズム」や「開始」を司る場所です。

視床下核にダメージが及ぶと、自分の意思とは無関係に手足が大きく、投げ出すように動く「ヘミバリズム」という症状が出る場合があります。

また、黒質が関わると、動作が極端にゆっくりになったり、震えが出たりします。これらはパーキンソニズムとも共通する課題を多く含みます。

こうした大きな不随意運動やリズムの乱れがある場合、それを計算に入れた上での「動作獲得」の練習が必要になります。

数年単位の長い時間が必要になることもありますが、一つひとつの動きを積み重ねていくことで、改善を目指していきましょう。

リハビリは日常生活が最大のチャンス

リハビリは日常生活が最大のチャンス

在宅生活において、リハビリ専門職が直接関われる頻度は決して多くありません。

だからこそ、普段の日常生活そのものを改善のチャンスと捉える視点が大事になってきます。

特別な訓練だけでなく、日々の何気ない動作の中に、改善のためのヒントがたくさん隠されています。

リハビリの時間に学んだことを日常生活で実践し、その頻度を増やしていく。

「なぜ?」という疑問を理論的な分析で解消し、生活の中で着実に実践していくことが、新しい日常を形作るための確かな一歩となります。

先の見えない不自由さを知ったからこそ、見えてくる「新しい体の動かし方」が必ずあります。

その発見を共に積み重ねていきましょう。

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