「もう動けるから、いらない」と言われます

脳卒中のあと、ケアマネジャーから介護ベッドの話が出ることがあります。そのとき、ご本人から「病人扱いみたいで嫌だ」「まだいらない」と返ってくる場面に、訪問の現場でよく出会います。

Bさんもそうでした。ケアマネジャーから「介護ベッドを入れる」という連絡が来たころ、私が訪問すると、Bさんはほとんど動けない状態でした。

数日たつと、また動けるようになってきました。するとBさんは「別に介護ベッドなんていらないんじゃないか」と言い始めました。

カタログと「安全のため」は、ご本人の困りごとから遠いところにあります

離れて暮らすご家族は、転んだらどうしよう、と心配して勧めます。そのとき手に取りやすいのが、福祉用具のカタログと「安全のため」という言葉です。

ただ、カタログに並ぶのは背上げや高さ調整といった機能の名前です。「安全のため」は、まだ起きていない転倒の話です。

ご本人が毎朝ぶつかっているのは、もっと手前の場面です。起き上がりがつらい。トイレに間に合わない。話はそこから始めます。

「便利になると体が悪くなる」と考える方もいます

別のCさんは、「頑張ったほうが力が入って良くなる」と考える方でした。便利な道具を使うと体が悪くなる、という考え方です。

在宅のリハビリで、いちばん解きほぐしにくいのがこの考え方だと感じています。

実際には逆のこともあります。動作が楽になると、余計な突っ張りが減ります。間に合わない焦りが減れば、気持ちにも余裕ができます。その結果、体の動きが良くなることもあるのです。

Bさんは、頭と足を逆にして寝ていました

Bさんは、ベッドの頭側に足、足側に頭が来る向きで寝ていました。私たちはこの寝方を「逆ベッド」と呼んでいます。

Bさんは「ベッドが高いから、低いほうがいい」とも話していました。介護ベッドは断りながら、今のベッドの高さにも困っていたのです。

起き上がりやすい側は、人によって違います。先ほどのCさんは、左側から起きるほうが明らかに楽でした。20年以上同じ向きで寝ていましたが、ベッドの向きを変えて、左側から起きられるようにしました。

「1分短縮できたら、間に合うかもしれませんよね」

Bさんには、介護ベッドの性能の話はしませんでした。話したのは、明日の朝のことです。

「普通のベッドの向きにすれば、朝のトイレまでの動線がずっと短くなります。1分短縮できたら、間に合うかもしれませんよね」

「お腹に力を入れる量も少なくて済むから、もっと我慢が効くかもしれません」

在宅での暮らしを続けている方にとって、トイレに「間に合う」か「間に合わない」かは決定的な差です。1分は、その差になりえます。

柵と高さの心配には、先に答えておきます

介護ベッドを迷う方は、口に出す前から心配を抱えています。

別の方は、起き上がるときに壁側の柵を使っていました。それで「介護ベッドだと柵がなくなるのでは」と心配していました。

「介護ベッドも、壁側に2つ柵をつけられます。形は違いますが、つかまりやすい位置に作られています」

高さの心配には、「ベッド自体が上下するので、ちょうどいい高さに合わせられます」と伝えました。

介護ベッドは、クッションのようにすぐ取り替えられる物ではありません。そのことも最初に正直に話します。そのうえで「試しに使ってみてダメだったら、業者さんに戻す相談をしてみてください」と添えます。

介護ベッドから普通のベッドに戻した人は、一人もいません

Bさんには、こう伝えました。

「今まで介護ベッドから普通のベッドに戻した人は、私の経験上一人もいません。それぐらい、介護ベッドはあなたが困っていることを全部カバーしてくれるんです」

慣れるまでの時間はかかります。それでも、戻したいと言った方に私はまだ会ったことがありません。

Bさんは納得してくれました。

届くまでのあいだに、寝る向きを直す練習をします

ベッドは、決めたその日には届きません。そのあいだ、何もしないで待つことはしませんでした。

「ベッドが届くまでのあいだ、リハビリの時間に、逆ベッドを正しい向きに直して寝る練習をしましょう」

ベッドが届いた日に、長く慣れた向きをいきなり変えると、動きが混乱します。翌日と木曜日に練習をして、1日にはケアマネジャーがベッドの説明に来る段取りになりました。

慣れたやり方を否定せず、試してから決める。新しい道具は、この順番で迎えます。

次に会う日は、ベッドの向きとトイレまでの道を見てください

電話で介護ベッドの話をしても、話は進みにくいものです。次に親御さんの家を訪ねた日に、1つだけ見てほしいところがあります。

ベッドのどちら側から起き上がっているか。そこからトイレまで、どう歩いているか。

頭と足の向きが逆になっていないでしょうか。起き上がったあと、ベッドを回り込んでいないでしょうか。

もし気になったら、介護ベッドの話はしなくて大丈夫です。「向きを変えたら、朝のトイレが近くなるかもしれないね」と、道のりの話だけをしてみてください。

ベッドを動かす前には、担当のケアマネジャーに一言相談してください。起き上がりの練習は、訪問のリハビリの時間にもできます。

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