「履ける靴」ではなく、「履きたい靴」を。装具ユーザーを悩ませる「靴難民」からの脱出法
- 株式会社 MARUHA MEDICAL
- 17 時間前
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はじめに:装具が完成した日、ふと感じる「戸惑い」
「お待たせしました。あなた専用の装具が出来上がりましたよ」
数週間の調整を経て、ようやく手元に届いたプラスチック製の装具。
「これで、もっと安定して歩けるようになる」 「リハビリが前に進む」 そんな希望に胸を膨らませて足を通した、その直後。
ふと、ある現実に直面し、立ち尽くしてしまう方がいらっしゃいます。
「あれ? 私の靴、入らない…」
今まで履いていたお気に入りのスニーカーも、仕事用の革靴も、ちょっとそこまで行くためのサンダルも。
玄関に並んでいる全ての靴が、装具を着けた足には全く入らなくなってしまうのです。
病院の売店に行くと、勧められるのは機能性を最優先した靴たち。
マジックテープが大きく開き、とても履きやすい、素晴らしい靴です。
でも、それを手にした時、心のどこかで「これを履いて、友人に会いにいけるだろうか」「スーツにこの靴を合わせて、会社に行けるだろうか」と、少しだけ躊躇してしまう自分がいる。
「歩くためには仕方がない」 そう自分に言い聞かせて、おしゃれを諦め、靴箱の奥にお気に入りの靴をそっとしまっていませんか?
この記事は、靴選びで悩み少し心が疲れてしまったあなたのために書きました。
靴は、ただの「履物」ではありません。あなたを外の世界へと連れ出し、地面とあなたを繋ぐ、とても大切なアイテムです。
今日は、装具を着けていても快適に、そして少しでも自分らしく歩くための「靴選びのヒント」と、知っておくと役立つ「調整の工夫」について、じっくりとお話ししたいと思います。
第1章:なぜ、装具を着けると「靴」が見つからないのでしょうか?
まず、なぜ装具を着けた途端に、これまでの靴が合わなくなってしまうのか、その理由から見ていきましょう。
「足が大きくなったから、サイズの大きい靴を買えばいい」と思っていませんか? 実は、多くの方がここで悩んでしまうのです。
装具を着けた足には、独特の「形」があります。
プラスチックの厚みはもちろん、足首の部分には、動きをコントロールするための金属製の金具がついていることが多く、ここが左右に膨らんでいます。
普通の靴は、人間の足の形に合わせて作られていて、入り口は指の付け根が動くことを考慮し、足首のサイズになっています。
しかし、装具を着けた足は、あなたを常に支えてくれる「足+専属のパートナー(装具)」が一体になっています。
ですから、単にサイズ(長さ)を大きくしても、横幅を広げても「足首の金具」が当たって入らなかったり、逆につま先が余りすぎてブカブカになったりしてしまいます。
ブカブカの靴は、実はとても危険です。 中で足が滑ってしまい、踏ん張りが効かず、転倒につながることもあるからです。
「ただ大きい靴」ではなく、「大切なパートナー(装具)ごと、足を優しく包み込んでくれる靴」を探さなければならない。
これが、靴選びを難しくしている本当の理由なのです。
第2章:最初の一足は、「お出かけしたくなる靴」を選びましょう

おしゃれな靴を履きたい。そのお気持ち、痛いほど分かります。
でも、退院直後や、装具生活が始まって間もない時期は、少しだけ「履きやすさ」を優先してあげてほしいのです。想像してみてください。
「履くのに15分かかる靴」があったとしたら、どうでしょう。
片手で必死に靴紐を緩め、装具を押し込み、また紐を結び直す。
玄関で汗だくになりながら格闘する15分間。それを毎日繰り返すのは、とても大変なことですよね。
おそらく、数日で「今日は出かけるのをやめようかな」という気持ちになってしまうかもしれません。
靴の履きにくさが、そのまま「外出のしにくさ」になってしまっては、あまりにももったいないことです。
ですから、私からの提案です。最初の一足は、「ストレスなく履けること」を大切に選んでみてください。
具体的には、こんな靴です。
入り口がガバッと大きく開くもの(ベロの部分が深い位置まで開くもの)。
靴紐ではなく、マジックテープやジッパーでサッと留められるもの。
かかとの部分がしっかりしていて、装具を押し込んでも型崩れしないもの。
まずは、「靴を履くストレス」をゼロにすること。
「これなら、いつでもパッと出かけられる」そう思える環境を作ることが、あなたの行動範囲を広げ、リハビリを前に進める「最初の一歩」になります。
第3章:見落としがちな「高さ」のこと、気にしていますか?
さて、ここからは専門家として、少しマニアックですが、とても大切なお話をさせてください。
靴選びで、意外と見落とされがちなのが、「左右の高さ」の問題です。
装具には、足の裏にプラスチックの厚みがあります。
つまり、装具を着けた側の足は、着けていない側の足(健足)に比べて、わずかに「脚が長く」なってしまっているのです。
この状態で、左右同じ高さの靴を履くとどうなるでしょうか。
装具側の脚だけが長いため、足を振り出しにくく、躓いたり体のバランスを崩しやすくなります。
「靴を変えてから、なんだか腰が痛い」「長い距離を歩くと、良い方の膝が痛くなる」 「よく躓く」など感じる方の多くが、実はこの「高さの違い」に原因があったりします。
ここで、「装具対応の靴(リハビリシューズ)」の優しさが見えてきます。
きちんとしたメーカーが作っている装具対応の靴は、この厚みのことを最初から計算してくれています。
中敷きを外せるようにしてあったり、靴底を調整していたりと、左右の高さを揃えるための工夫が凝らされているのです。
一方で、市販のスニーカーには、当然そこまでの配慮はありません。
もし、ある程度歩けるようになり、市販のスニーカーに挑戦したいと思った時は、この「高さの調整」を少しだけ意識してみてください。
具体的には、装具を着けている靴の中敷きを外し、装具を着けていない方(健足)の靴の中に、市販されている厚めの中敷き(インソール)に入れ替えます。
たった数ミリのことですが、これで左右の高さが修正されて、歩きやすさが驚くほど変わることがあります。
「なんだか歩きにくいな」と感じたら、靴のデザインだけでなく、この「高さ」にも目を向けてみてくださいね。
第4章:「復職」と「散歩」で使い分ける、素材と色の選び方

生活に慣れ、歩行も安定してくれば、次はいよいよ「社会復帰」や「おしゃれ」を楽しみたいですよね。
最近の靴は、デザインや色がとても豊富になってきています。黒、紺、ベージュなど、普段着にも合わせやすいものが増えています。
ここでポイントになるのが、「素材」と「色」の選び方です。 あなたの生活に合わせて、上手に使い分けるヒントをお伝えします。
「散歩」には布、「仕事」には合皮。
まず、素材です。
近所の散歩や、リハビリ目的の外出がメインなら、「布(メッシュ素材)」がおすすめです。柔らかく、足の形に優しく馴染むので、靴擦れの心配も少なく、何より軽くて歩きやすいのが魅力です。
一方、「仕事に戻りたい」「冠婚葬祭に出たい」という場合は、「合成皮革(合皮)」のタイプを選んでみましょう。
布製に比べてキチッとした印象を与えますし、雨や汚れにも強いのが特徴です。一見すると革靴のように見えるデザインのものも多く出ています。
「黒×黒」の組み合わせ
仕事でスーツを着る方に、私がよくおすすめしているのが、「黒色の合皮の靴」と「黒色の装具」の組み合わせです。
足元を黒一色で統一することで、装具のボリューム感が目立ちにくくなり、スーツ姿に自然に溶け込みます。
「足元を見られるのが嫌だな」というストレスが減るだけで、仕事にもっと集中できるようになります。これも、大切な工夫の一つです。
冬の注意点
冬場の合皮は、少し時間がかかります。
ただし、合皮の靴を選ぶ際には、一つだけ知っておいてほしいことがあります。
それは、「馴染むまでに少し時間がかかる」ということです。
布製と違って生地がしっかりしているため、履き始めは少し硬く感じることがあるかもしれません。
特に「冬場」は要注意です。寒さで素材自体がギュッと硬くなるため、夏場ならすぐに馴染むものが、冬場だと毎日使っても1〜2ヶ月かかることもあります。
「新しい靴を買ったから、明日から会社に履いて行こう!」と張り切る気持ちも分かりますが、少しだけ待ってくださいね。
まずは家の中で履いてみたり、短い時間の外出で足を慣らしたりして、素材を柔らかくしてから、本格的にデビューさせてあげてください。
この「慣らし期間」を作ることが、冬場の靴選びで失敗しないコツです。
第5章:「履きたい靴」を諦めないための、プロの知恵
それでも、「どうしても、あのブランドの靴が履きたい」「市販の靴で歩きたい」という思いがある方へ。諦めないでください。
少しの工夫と知識があれば、選択肢はもっと広がります。
市販の靴を「私仕様」にする工夫
「この革靴が履きたいけれど、入り口が狭くて入らない」 そんな時は、街の靴修理屋さんに相談してみるのも一つの手です。
靴の内側にファスナーを取り付ける加工をしてもらうことで、見た目はそのままで、入り口が大きく開く「履ける靴」に変身することがあります。
「靴を改造する」という発想はなかなかないかもしれませんが、プロの手を借りれば、お気に入りの一足が蘇るかもしれません。
「サイズ違い」の悩みを解消するテクニック
装具を着けると、左右で足のサイズが大きく変わってしまいますよね。
「左は24cmだけど、右は26cmじゃないと入らない」。そんな時、2足買うのは大変です。
そんな時は、大きい方のサイズ(26cm)に合わせて一足購入し、小さい方の足(24cm)の靴のつま先部分に、「詰め物(サイズ調整用のクッション)」を入れてみてください。
靴の中で足が泳いでしまうのを防ぎ、フィット感を高めることができます。
これも、100円ショップや靴屋さんで手に入るグッズで十分対応できます。
メーカーではなく、自分の足で探すこと
よく「どこのメーカーの靴がいいですか?」と聞かれますが、私はあえて特定のメーカー名は挙げないようにしています。
なぜなら、足の形も、装具の形も、一人ひとり全く違うからです。Aさんにとって最高の一足が、Bさんには合わないということは、よくあることです。
大切なのは、ブランド名ではなく、「履き心地」と「構造」です。 実際に靴屋さんに行き、色々な靴を試着してみてください。
店員さんに相談してみてください。
その少しの手間こそが、あなただけの運命の一足に出会うための近道なのです。
少しだけヒントをお伝えするならA社、N社は足狭めの方に向いています。もう一つのA社、N社は足幅が大きい人に合う靴が多いです。
おわりに:靴は、あなたを遠くへ連れて行く「タイヤ」です
ここまで、靴選びについてお話ししてきました。
装具が、あなたの歩行を支える「ホイール」だとしたら、靴は、その力を地面に伝える「タイヤ」です。 どんなに素晴らしいホイールがあっても、タイヤが合っていなければ、心地よく走ることはできません。
「靴」と「装具」と「足」。 この3つが仲良く噛み合って初めて、快適な歩行が完成します。
もしあなたが今、
「痛いのを我慢して歩いている」
「靴を見るたびに、ため息が出る」
「玄関で靴を履くのが億劫で、外出が減ってしまった」
そんな悩みを抱えているのなら。
それは、あなたの足が悪いのでも、装具が悪いのでもなく、単に「靴との相性」がうまくいっていないだけかもしれません。
たかが靴、されど靴。
その一足を変えるだけで、あなたの歩行は、そしてあなたの生活は、もっと軽やかに、もっと自由になる可能性を秘めています。
まずは、「履きやすい靴」から始めて、外出の自信をつけていきましょう。
そしていつか、あなたが心から「履きたい」と思える靴で、颯爽と街を歩く日が来ることを、私は心から応援しています。
もし困ったときは、私たち専門家も一緒に、あなたにぴったりの「タイヤ」を探すお手伝いをします。
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