【病態別】第9回:側頭葉・前頭葉出血・梗塞(左側) 言葉が通じない?見えない壁と闘うご家族へ
- 2 時間前
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はじめに:言葉を忘れたのではなく、翻訳機が休業しているのです

病態別にお話しする連載の第9回目は、言葉の壁となる失語症を引き起こす、左側の側頭葉(そくとうよう)や前頭葉のダメージについて取り上げます。
手足のリハビリを頑張り、無事に退院を迎え、一緒に家に帰ることができた。
それなのに、いざ生活の中で会話をしようとすると、決定的な違和感に直面します。
言いたいことが言葉にならない。相手の話しかけている意味が分からない。
言葉のキャッチボールが成立しないという見えない壁の前に、ご家族は深い悲しみと孤独を抱えることになります。
どうして話が通じないの。あんなに楽しくおしゃべりしていたのに。そんな絶望の淵にいるご家族に、まず最初にお伝えしたいことがあります。
ご本人は、あなたへの愛情や、これまでの思い出を忘れたわけではありません。
頭の中にある想いを言葉に変換する、あるいは相手の言葉を意味として受け取る翻訳機が、病気の影響で休業している状態なのです。
失語症の3つのタイプ:表出と理解の壁
失語症には、大きく分けて3つの種類があります。
脳のどの部分がダメージを受けたかによって、現れる症状が全く異なります。
まずは、ご本人がどのタイプに当てはまるのかを知ることが、理解への第一歩です。
(1) 言葉が出ない(運動性失語・ブローカ失語)
主に左側の前頭葉という場所がダメージを受けると起こります。
相手の言っていることはしっかり理解できているのに、いざ自分が話そうとすると「あー」や「うー」しか音が出ない、あるいは言いたい単語が喉まで出ているのに口から出てこない状態です。
頭の中ははっきりしている分、ご本人は非常にもどかしく、言葉にできない悔しさから涙を流すこともあります。
(2) 言葉が理解できない(感覚性失語・ウェルニッケ失語)
主に左側の耳の奥にある側頭葉がダメージを受けると起こります。
ご本人はニコニコと滑らかに話しているのに、「あれの、ポッポが」といった意味を持たない言葉(ジャーゴン)になります。
自分が間違っていることに気づきにくく、また、ご家族が「ご飯だよ」と声をかけても、まるで外国語を聞いているように感じられ、言葉の意味が理解できません。
(3) 聞くことも話すこともできない(全失語)
左脳の広い範囲がダメージを受けると、相手の言葉を理解することも、自分で言葉を発することも非常に困難になります。
周囲の世界から切り離されたような強い孤独感に包まれるため、最も優しい環境のサポートが必要になります。
麻痺や失行が絡む、在宅介護の複雑さ

言葉の壁だけでもご家族にとっては大変なショックですが、現実はさらに過酷です。
多くの場合、ここに右半身の運動麻痺が絡んできます。
言葉が出ないなら身振り手振りで伝えよう、文字盤やペンを使おうと思っても、利き手である右手が高い確率で麻痺しているため、思うように指先が動かず、もどかしさが倍増します。
加えて、お箸やハサミなどの道具の使い方がわからなくなる失行(しっこう)や、物の認識ができなくなる失認(しつにん)といった別の見えない障害が重なることも少なくありません。
言葉で説明しても理解できず、見本を見せても手足がうまく動かず、道具の使い方もわからない。
この状態は、コミュニケーションにおいて八方塞がりのように感じられます。
言葉が通じず、身体も動きにくく、日用品の使い方もわからない。
この複雑に絡み合った状態を生活の中で解きほぐしていくには、ご家族だけで抱え込むのは限界があります。
だからこそ、地域の専門家によるサポートが必要不可欠になるのです。
タイプ別の実践的アプローチ:言葉を引き出し、環境を整える
では、ご自宅でご家族はどのように接すれば良いのでしょうか。タイプによって、効果的なアプローチは明確に異なります。
言葉が出ない運動性失語の方には、「はい」か「いいえ」で答えられる質問(クローズド・クエスチョン)を投げかけるのがコツです。
「何が食べたい?」と聞くのではなく、「お茶が飲みたい?」「トイレに行きたい?」と具体的に聞き、うなずきや首振りを引き出します。
これを繰り返して選択肢を狭めていくと、ご本人の本当の思いや希望を的確に読み取ることができます。
一方、言葉が理解できない感覚性失語の方は、相手の言葉は分からないものの、何かを伝えたいという強い思いは持っています。
ここで激しいすれ違いが起き、お互いにイライラが募ります。大切なのは、本人が状況を察知しやすく、言葉がなくても伝わる環境作りです。
例えば、テレビやラジオの音を消して、耳からの余計な情報(ノイズ)を減らす。
お茶に誘うときは言葉だけでなく、必ず本物の湯呑みを目の前で見せる。
よく使う日用品は常に同じ場所に置き、視覚的に分かりやすくする。
こうした環境の工夫一つで、ご本人の混乱は驚くほど落ち着き、コミュニケーションは円滑になります。
教習所と公道:10年を見据えた社会とのつながり

失語症は高次脳機能障害の一つであり、回復には2年から5年程度という長い月日がかかります。
言葉の壁があると、どうしても人との関わりを避け、家に引きこもりがちになります。
しかし、絶対に社会とのつながりを断ち切ってはいけません。
机の上で文字を書いたり絵カードを見たりする訓練ももちろん大切ですが、それはあくまで基本的な形を作る作業です。
机上の訓練が自動車教習所だとしたら、実際の社会生活は公道での運転と同じです。
教習所で基本を学んだら、外に出て色々な人と接する。
デイサービスや地域のお店など、生の会話が飛び交う社会に参加すること自体が、脳にとって何よりの実践的なトレーニングになります。
最初は戸惑うこともありますが、重度の失語症であっても、社会活動に参加し続けることで、10年という長い期間を経て少しずつ言葉やコミュニケーション能力が改善していくケースは実際に存在します。
おわりに:言葉を超えた、新しい絆を結ぶために
毎日言葉の通じないご家族と向き合い続けることは、想像を絶するエネルギーが必要です。
つい大声を上げて、後で深く落ち込む夜もあるはずです。
でも、どうかご自身を責めないでください。あなたは今日まで、本当に一生懸命にご本人を支えようと頑張ってこられました。
絶望の淵にいるときこそ、私たちを頼ってください。
私たちは、ご本人の言葉にならないサインを読み取る通訳になります。
どんな状況でも決してご本人を見捨てませんし、毎日ギリギリのところで踏ん張っているご家族の、絶対的な味方であり続けます。
焦らず、ゆっくりと。教習所での学びと、公道での実践を繰り返しながら。
言葉の壁を越えて、心が通じ合う穏やかな時間を、皆でサポートしながら一緒に見つけていきましょう。
執筆者

理学療法士/脳卒中リハビリアドバイザー
二出川 龍
延べ3,5万件を超えるリハビリ実績。寝たきり・車椅子の方1,000人以上を再び歩ける状態へ。初台リハビリテーション病院では長嶋茂雄氏の脳梗塞リハビリに携わり「右手ポケットスタイル」を考案。/2000年〜理学療法士、2008年〜脳卒中専門リハ事業を運営。
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