玄関を開けると、部屋の空気がむわっとしている。エアコンは止まっている。ご本人は椅子に座って、いつもどおりテレビを見ている。
「暑くないですか」とうかがうと、「暑くないよ」と返ってきます。「お茶は飲まれましたか」と聞くと、「喉が渇かないんだよね」。
このやりとりが、夏はほんとうに多いのです。体温を測ると平熱。それでも、その日の脈は、いつもより速いことがあります。
お盆が明けて、湿気の重い日が続いています。今日は、こういう日の体で何が起きているかという話をさせてください。
熱は、体温計より先に脈のほうへ出ます
湿気の強い日は、汗をかいても乾きません。汗は乾くときに熱を持っていってくれるので、乾かないままだと、熱が体に残ります。
このとき体は、熱を逃がそうと皮膚のほうへ血を送ります。心臓に戻ってくる血が減る分を回数で補おうとして、脈が速くなるのですね。立ち上がったときのふらつきも、同じ理由で起きています。
だから、体温計だけでは足りないのです。私が訪問先で見ているのは、体重、血圧、脈、体温の4つ。夏はこの4つを並べて見ています。
手の甲をつまむ見方は、あてになりません
手の甲をつまんで、戻りが遅ければ水分が足りていない。ご存じの方も多いと思います。私も長く使ってきました。
ところが、細かく調べてみると、ご高齢の方ではこの見方が当てにならないと分かってきています。年を重ねた皮膚は、水分が足りていても戻りが遅いのです。脈だけ、口の渇きだけ、尿の色だけで決めようとする形も、同じでした。
代わりに手がかりになるのは、うんと素朴なことでした。食事のときの飲み物が、残っていること。だるい、と口にすること。この2つが重なった日は、飲み方を見直す日だと思っています。
「暑くないよ」は、部屋が涼しい証拠になりません
年を重ねると、暑さそのものを感じにくくなります。のどの渇きも起こりにくくなります。汗の量も減って、体に蓄えている水分も少なくなっています。
こればかりは、ご本人の感覚より温湿度計の数字のほうが確かです。比較的安価なものもあるので、よく座る場所の、目に入るところに一つあると安心ですね。
夜のエアコンは冷房で。28度は、部屋の温度です
よく言われる28度は、部屋の温度のことです。リモコンの設定温度ではありません。ここは取り違えている方がとても多いところで、設定を28度にしても、部屋が28度になるとは限りません。
だから温湿度計を見ながら決めます。設定は27度あたりから始めて、部屋の数字を見ながら動かせば大丈夫です。
除湿にしている方もいらっしゃると思います。多くの機種の除湿は弱い冷房で動いていて、部屋の温度が下がりにくい仕組みです。蒸し暑い真夏は、冷房のほうが向いています。タイマーは切れたあとに部屋が暑くなるので、使うなら3時間から4時間くらいがいいですね。
水分は、まとめてよりも、ちょいちょい
飲み物としてとる量は、1日1.2リットルから2リットルが目安です。幅があるのは、体の大きさで変わるからですね。食事に含まれる水分は、これとは別に数えます。
のどが渇いてから飲む形だと、もう遅いのです。渇きを感じにくくなっているので、時間のほうで決めます。起きたとき、食事のとき、お風呂の前後。決めておくと、飲み忘れが減ります。
冷たい麦茶を用意しているご家庭は多いですね。ミネラルが入っているので、ふだんの水分にはちょうどいいと思います。
汗をたっぷりかいた日は、そこに塩気がほしくなります。汗と一緒に塩分も出ていくので、水やお茶だけを足していくと、体の塩分が薄まって足がつることがあるのです。梅干しをひとつ、お味噌汁を一杯。それで足ります。しっかり汗をかいた日は、スポーツドリンクや経口補水液が早いですね。
血圧の薬や、尿を出す薬をお使いの方は、夏の飲み方だけ、主治医か薬剤師に一度聞いておくと安心です。
迷ったら、まず電話を
脈が速い。顔色がいつもと違う。今日は動かしていいのだろうか。

ここをご家族だけで決めなくて大丈夫です。その日に入る予定の訪問看護やデイサービス、それから主治医、ケアマネジャー。つながるところへ一本、電話をしてみてください。
このとき、「今日は休ませます」と決めてから連絡しなくて構いません。むしろ、決めずに様子だけ伝えるほうがいいのです。行くか休むか、行くとして何をどこまでにするか。そこは受けた側が判断します。
伝えるのは3つで足ります。朝から何を飲んだか。部屋は何度だったか。脈はいくつだったか。これだけで、受けた側の判断はずいぶん変わります。
休んだ日の分は、翌日に取り返す必要もありません。前の日に熱がこもった体は、次の日もまだ戻りきっていないことがあります。
順番だけ、頭の隅に
具合が悪そうなとき、やることの順番は決まっています。
まず涼しい場所へ移して、服をゆるめ、首の両側、脇の下、脚の付け根を冷やします。ここから先は、冷やしながら進めます。
次に、呼びかけに応えるかを見ます。返事がはっきりしない、答えがない。このときは救急車です。呼んだあとも、待つ間は冷やし続けます。反応がはっきりしないときに水を飲ませるのは避けます。気道に入ることがあるからです。
応えてくれるなら、自分で飲めるかを見ます。飲めるなら、冷たい飲み物をご本人の手で。吐き気がある、吐いた、自分では飲めない。このときは飲ませずに、医療機関へ向かいます。
休んで冷やして元気が戻れば、そのまま安静にしていて大丈夫です。戻った日も、その日のうちに一報だけいただけると助かります。軽く済んだ日として置いておくと、次の日の相談に使えます。
脈は、1分間そのまま数えるのがおすすめです
体温計は毎日使っても、脈にさわる習慣のあるご家庭は多くありません。手首の親指側に指を当てて、60秒。
15秒を4倍する測り方が知られています。脳卒中の方は脈が乱れることが多いので、その測り方だと数がずれるのですね。1分間、通して数えるほうが確かです。
数えている間に、打ち方も見てみてください。飛ぶ、ばらばらに感じる、強さがそろわない。気づいた日は、数と一緒にそのことも教えていただけると助かります。
いろいろと書きましたが、ほとんどの日は、涼しくして水分をとれば済みます。全部を覚えなくて大丈夫です。
夏はあと少し続きます。無理に動かさず、涼しくして、水分をちょいちょい。今日できることは、それで十分です。
不安なときは、いつでも私たちを頼ってください。科学的な視点と、あなたに寄り添う心で、すぐそばで応援し続けます。
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