今回は転倒について、お話しさせていただきます。
転んだ直後は、力が入らない時間があることが珍しくありません。
ご本人は、自分が転ぶとは思っていません
床に座り込んだまま、なかなか起き上がってこない。この数十秒が、とても長く感じられます。
ご本人の中では、まだ何が起きたのか整理がついていないのですね。転んだときは、たいてい気が動転します。
自分が転ぶと思っている方は、多くありません。思ってもみなかったからこそ、驚きますし、大きな衝撃を受けるのです。
体は、その衝撃にまだ追いついていないのですね。
起こせなかったのは、力が足りなかったからではありません
早く起こさないと。手が伸びるのは、当たり前のことだと思います。
ご本人が立ち上がろうとしても、この時間はなかなか力が入りません。起きるために力を合わせることも、しばらくできないのです。
そばにいるご家族は、力づくで起こす形になります。力を入れ切れずに起こせない場合が少なくありません。
手を伸ばしたのが、力の入らない時間にたまたま重なっただけなのです。
起き上がれないなら、そのままで大丈夫です
起こせないまま、時間だけが過ぎていく。焦る気持ちも、無理はありません。
起き上がれないのであれば、そのままで大丈夫です。危険な姿勢さえ取らなければ問題ありません。
ここでいう危険な姿勢は、呼吸ができない姿勢のことです。命を保つのに困る形になっていないか、そこだけ確かめます。
急いで持ち上げるより、落ち着いていただくほうが先なのですね。待っている時間は、何もしていない時間ではありません。
けがより先に見るのは、受け答えです
尻もちだけで済んだように見えることがあります。本当に尻もちだけなら、それに越したことはありません。
頭を打っている場合もあります。転んだあとになって気づくこともあるのです。

まず見るのは、意識がちゃんとしているかどうか。受け答えがいつもどおりかを確かめます。
けがの見た目より先に、私はここを見ています。
痛み、出血、あざの順で見ていきます
ここからは、体の様子を順にたどります。痛いところはないか、出血がないか、体にあざがないか。
出血があった場合は、それなりの処置が必要になります。
急いで医療につなぐ場面の見分け方は、別の機会にお伝えします。時間が経ってから痛みが出る話も、あらためてお話ししますね。
見る順番が決まっていると、慌てている場面でも手が動くのです。
30分ほどで、立ち上がる力は戻ってきます
何も起きていないように見える時間が、しばらく続きます。ご家族には、この時間がいちばん心細いかもしれません。
30分ぐらいすると、立ち上がる力が入ってきます。そこから、介助しながら立ち上がる形になります。
落ち着いたあとに、自分で立ち上がれるケースもありますよ。
この30分は、待たされている時間ではありません。ここまでが、その場に居合わせた日の話です。
「転んだみたい」の一行からでも、分かることがあります
離れて暮らしていると、知らせはこの短さで届きます。その場にいられなかった悔しさも、あるかもしれません。
私が訪問先でお会いするときは、場面をたどって聞きます。どこで、何時ごろ、どちらを向いていて、どんな倒れ方だったか。
たとえば「トイレの前で、後ろに尻もちをついたそうです」。この一行で、向き直るときか座る瞬間に、後ろへ崩れたのだろうと見当がつきます。
起き上がりも移動もできているのなら、弱いのは向きを変える動きと、後ろへ下がる動きですね。
「怖い」は、消さなくていい気持ちです
電話の向こうで、ご本人が「怖い」と口にすることがあります。「大丈夫だよ」と打ち消したくなりますよね。
私は、その怖さをそのまま受け取るようにしています。怖いと感じている方は慎重になりますし、無茶をなさいません。

怖さは、良い薬になることがあるのです。今の怖さは、消さなくて大丈夫ですよ。
手すりの話は、そのあとでも間に合います
転んだと聞くと、まず手すりをつけようという話になります。そのお気持ちは、よく分かります。
その前に、転んだとき何を履いていたかを聞いてみます。足元にマットや荷物がなかったかも、うかがいます。
原因が分からないまま手すりをつけると、別の場所で転ぶことがあるのですね。手すりが効いてくるのは、転ぶ場所が絞れてきたときです。
取り除けるものが先に見つかることもあります。工事の相談は、そのあとで十分です。
床の立ち座りと転倒のつながりは、私の経験からの話です
床の立ち座りが自分で自由自在になってくると、転倒するリスクも減ってくる。私は現場でそう感じています。
これは私の経験から出てきた話で、学術的に確かめられたものではありません。そのつもりで受け取っていただけたらと思います。
練習のことは、担当の理学療法士に相談しましょう
リハビリで常日頃から、転倒しない体を作っておくことが大事です。ここは、ご家族だけで抱えるところではありません。
訪問リハビリの方や普段来ている理学療法士に相談して、練習に努めてみましょう。床からの立ち座りをどこから始めるかは、体の状態で変わります。
起こせなかった日のことで、どうかご自分を責めないでください。あの時間は、誰にもどうにもならないものでした。
「転んだあと、自分で立ち上がれませんでした」。その一行だけ、送ってみてください。
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