視床は、体からの知らせが必ず通る中継所です
親御さんが倒れて、医師から「視床に出血があります」と言われた。その場では、うなずくだけで精一杯だったかもしれません。
視床(ししょう)は、脳のほぼ真ん中に、左右に1つずつある小さな場所です。体じゅうから届く知らせが、必ずここを通ります。
神経の仕組みは、糸電話とよく似ています
足の裏に体重が乗ると、その知らせが糸を伝って脳へ上がります。脳が「もう少し乗っていいよ」と返事を出して、足が動きます。
その糸が全部集まってくる結び目が、視床です。
表面の傷と、真ん中の傷では、出方が変わります
糸電話のどこが切れたかで、起きることは変わります。脳の表面の一部だけなら、感覚だけ、あるいは動きだけが不調になります。
真ん中の結び目に傷がつくと、そこは全部の知らせが通る場所です。手足、言葉、意識と、いろいろなところに影響が出ます。
同じ脳出血という病名でも、出血した場所と量と広がりが違えば、症状はまったく別のものになります。隣のベッドの方と、改善の速さを比べる必要はありません。
まず目につくのは、触った感じのほうです
視床出血で目立つのは、多くの場合、手足の動きよりも感覚のほうです。視床が、体からの知らせを受け取って届ける場所だからです。出血した側と反対の半身で、触られた感じが薄くなります。
お湯の温度が分からない。持ったコップの重さが伝わってこない。
足が床に着いているかどうか、目で見ないと分からない。こうした訴えが出ます。
ご本人が目で見て確かめているので、周りからは気づきにくい変化です。体の半分が他人のものになったような心細さが、ずっと残ります。
温度が分からないことは、やけどにつながります。麻痺した側の手でお湯に触れても、熱いと感じないまま入ってしまうからです。お湯に入る前に、麻痺していない側の手で温度を確かめる。ご本人が自分でできる確認として、これは覚えておいていただきたいところです。
触っても何もないのに、痛みだけがあることがあります
ご家族がいちばん理解しにくいのが、この症状です。視床痛(ししょうつう)と呼ばれます。
焼けるような、しびれるような痛みが、麻痺した側にずっと続きます。触ると痛いのとは違って、触っていなくても痛みます。
服が当たるだけ、風が当たるだけで強く痛むこともあります。腕を見ても、傷も腫れも赤みも、何も見当たりません。
痛みの元は、腕ではなく視床のほうにあります
痛みの元がどこにも見つからないので、周りは気のせいではないかと思いたくなります。これは傷んだ中継所そのものが出している信号です。
この痛みが始まる時期は、発症から3か月ほどの間が多いと言われています。日本では、ちょうど回復期の病院におられる時期にあたります。いま痛みを訴えておられる方の多くは、退院より前からその痛みを抱えてこられた方になります。
数は少ないものの、家に戻られて半年、1年とたってから出てくる方もおられます。あとから出たからといって、この痛みではないということにはなりません。新しく痛みが出たときは、そのまま医師にお伝えください。
一般的な痛み止めが効きにくいことも知られていて、医師が選ぶ薬の種類もそこで変わります。
手足の動きにくさも、一緒に出ることがあります
視床のすぐ隣には、体を動かす指令の通り道が走っています。出血がそちらへ広がると、反対側の手足に麻痺が出ます。
感覚と動きの両方が重なると、練習の進み方はゆっくりになります。力が入るようになっても、足がどこにあるか分からないままでは、安心して体重を預けられないからです。
麻痺のほうが軽く見える方でも、感覚だけがあとまで残ることは少なくありません。
右の視床と左の視床では、出てくるものが変わります
麻痺も感覚の変化も、出血した側と反対に出ます。右の視床なら左半身、左の視床なら右半身です。
左側で起きたときは、言葉の出にくさが加わることがあります。右側で起きたときは、左にあるものに気づきにくくなることがあります。
どちらも、ご本人からは訴えとして上がってきません。ご家族が先に気づく形になりやすいところです。
左に気づきにくいほうは、時間とともに薄れていくことが多いと報告されています。同じ右側でも、被殻という別の場所の出血では残ることがあるのに対して、視床の場合は経過のなかで消えていったという記録です。いま気づかないからといって、ずっとこのままとは限りません。
「変な感じがする」は、動き出した合図のことがあります
感覚が戻る道のりには、2つの段階があります。体の側が知らせを受け取る段階と、脳がそれを翻訳する段階です。
何も感じなかった時期は、受け取る段階が止まっていた時期です。そこが動き始めると、今度は脳が一生懸命に翻訳しようとします。
翻訳が追いつかないあいだ、ご本人には言いようのない変な感じとして届きます。訪問先でそううかがったときは、私はよい知らせとしてお伝えしています。
その変な感じに痛みが混じるようになったときは、別の話になります。その場合も、そのまま医師にお伝えください。
数字が2のままでも、精度は育てられます
リハビリの場では、麻痺していない側の感覚を5として、麻痺した側はいくつですかとうかがうことがあります。この数字は、他の方とは比べられません。
大切なのは、5に戻るのを待つことよりも、いまある2の精度を上げていくことです。最初は膝が曲がっているかどうかも分からなかった方が、続けるうちに、半分くらい曲がっていると分かるようになることがあります。
どこまで細かく分かるようになるかは、人によって違います。角度の違いまで見分けられるようになる方もおられますし、そこまでは届かない方もおられます。それでも、この精度が、つま先を引っかけずに足を運べるかどうかに関わってきます。
筋力がついても、膝の曲がり具合が分からないままでは、足を擦ってつまずきます。年の単位で見ていく道のりだと思っていただくと、焦りが少し軽くなります。
おわりに:見えない症状に、言葉をつけましょう
視床出血のあとに残るものは、外からはほとんど見えません。歩いている姿だけを見て、もう大丈夫と判断されることもあります。
見えないものを見える言葉にできるのは、毎日そばにいるご家族です。次に会えた日に、触った感じと痛みのことをご本人に聞いてみましょう。
その一言が、担当の療法士や医師にとっては、いちばんの手がかりになります。
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