片麻痺のリハビリは、どこまで回復するのでしょうか。その問いを持って、このページにたどり着く方がたくさんいらっしゃいます。

ご本人とご家族が知りたいのは、たいてい月数のことです。あと何か月続ければ、お体はどこまで良くなるのか。

私は理学療法士として訪問の現場に入っていて、同じ問いを何度もうかがってきました。

月数で答えが出るなら、話はかんたんです。実際には、同じ月数でも進み方はまったく違います。

今回お伝えしたいのは、その問いの答えが出てくる場所です。階段、お風呂、着替えといった暮らしの場面の側に出てきます。

「半年が限界です」と言われて、練習から離れる方がいます

病院のリハビリで「発症から半年が限界です」という言葉を受け取る方がいます。いわゆる6か月の壁と呼ばれているものです。

それを聞いて、もうこれ以上は良くならないのだと希望を失う方がいらっしゃいます。

訪問の現場でも、その日から練習の回数が減っていくのを見てきました。一人で抱え込んだまま、この長い時期を越えようとしている方も多くいます。

半年という区切りには、体の側と制度の側の2つがあります

1つは体の側です。手足の動きの改善が落ち着いてくる時期として、半年あたりが言われてきました。

もう1つは制度の側です。回復期リハビリテーション病棟の入院料を算定できる日数には、上限が決められています。

脳血管の病気では150日、高次脳機能障害をともなう重い場合は180日です。その180日が、ちょうど半年にあたります。

この2つが同じ半年に重なるので、混ざって伝わります。制度のほうが区切っているのは、入院していられる期間です。

止まって見える時期が指しているのは、動きの形のことです

発症から半年から1年ぐらいのあいだに、一時的に止まったように見える時期が訪れることがあります。これは機能的停滞と呼ばれています。

手や足が動くか動かないか、という動きの形のことを指した言葉です。暮らしが止まったという意味ではありません。

外から見て止まっているように見える時期に、内側では次の準備が進んでいることがあります。

「どこまで」の答えは、月数の側ではなく暮らしの側に出ます

月数で測ると、答えは1つの数字の形になります。あと3か月、あと半年、という形です。

暮らしの場面で測ると、答えは出来事の形になります。階段を上がれた、背中を洗えた、という形です。

月数は、だれが見ても同じ数字になります。場面は、そこで暮らしている人にしか見えません。

私がご本人とご家族に見ていただいているのは、場面のほうです。

量をどれだけ増やしたかから、どれだけ丁寧に動けたかへ移ります

止まって見える時期は、量から質への転換期でもあります。進み方の測り方を替える時期だと考えています。

歩く距離を増やし続けるよりも、1歩のなかで何が起きているかを見ます。足の裏で地面を感じているか、肩に無駄な力が入っていないか。

肩の力が抜けてきたか、足の運びが前より静かになったか。この2つは、歩数計には出てきません。

距離は数えられるので、増えないと止まったように見えます。1歩の丁寧さは数えにくいので、ご本人とご家族には気づかれないまま過ぎることがあります。

手のほうは、月数で測るといつまでも足りない側に数えられます

片麻痺では、まず足が優先されます。足で移動できるか、車椅子か、それによって暮らせる範囲が大きく変わるからです。

一方で手は、1日に使う回数が足よりずっと多くなります。使う回数が多いぶん、練習に必要な時間も足より長くなります。

今の保険制度の入院期間では、手はまだ途中のまま家に帰ることが多くなります。月数で区切ると、その途中が足りないという意味に読み替えられます。

だからこそ、家に帰ってからの手への関わり方が、そのあとの暮らしを分けていきます。

階段で、麻痺側の足がまっすぐ出ていませんか

麻痺側の足は、運び出すときに思った向きへ出にくくなります。その向きが変わると、同じ階段でも引っかかり方が変わります。

これまで足が内側に入っていた方が、階段でまっすぐ出せるようになった。訪問の現場では、こういう変化に出会います。

月数では表せない変化です。半年という日付をまたいだ瞬間に起きるものでもありません。

階段は毎日使う場所なので、変わったことに気づきやすい場面でもあります。

お風呂で、背中やお尻に手が届くようになっていませんか

お風呂の時間に、足や背中、お尻に手が届くようになった。自分で洗えるようになった。

背中やお尻は、体をひねって腕を回さないと届きません。そこへ手が届いた日は、腕の動きだけが変わったわけではありません。

だれにも頼まずに済む場面が1つ増えた、という話でもあります。

訪問で見てきた変化のなかで、私がいちばん先に思い出すのは、この場面です。

そのあとのズボンや下着が、前より楽になっていませんか

お風呂で手が届くようになると、そのあとのズボンや下着を履くのもうまくなってきます。

1つの場面が変わると、その後ろにつながっている場面も一緒に変わります。

着替えは、1日に必ず通る場面です。だから月数のかわりの目盛りとして使えます。

ここまで来ると、ご本人よりご家族のほうが先に気づくことがあります。洗濯物の出方や、朝の支度にかかる時間が変わるからです。

麻痺した手を仲間外れにしないでいましょう

動かないからといって服の中にしまい込んだり、見ないようにして過ごすと、脳のほうもその手を忘れていきます。これは学習性不使用と呼ばれています。

ですから、まず触ってみましょう。反対の手でさすったり、食事のときにお皿の横に添えたりして、目で見える場所に置いておきます。

指先から手首、肘、肩まで、順によく触ってみましょう。「今日も一緒だよ」と声をかけながらでも構いません。

実用的に動く手になるのが望みですし、そうならなくても大丈夫です。一緒に暮らしていくパートナーとして、日常の景色の中に入れておきます。

周りの方とも、倒れる前のご自分とも比べなくて大丈夫です

同じ時期に発症した方と比べると、進み方の違いばかりが目につきます。

倒れる前の自分と比べると、戻っていない部分ばかりが残ります。

進み方は、人それぞれで違います。同じ場所の出血でも、暮らしの中で何を使うかが違えば、変わる場面も違ってきます。

比べる相手は、昨日のご自分に替えてみましょう。そうすると、毎日の積み重ねが数えられる形になって前に出てきます。

今日できるほんの少しから積んでいきましょう

私がいつもお伝えしているのは、毎日の積み重ねです。1日の分はほんの少しなので、今日や明日では目に見えません。

それでも、その方の頑張りは確かに積み上がっていきます。ある日それが、場面の形になって出てきます。

ですから「どこまで改善するのでしょうか」とうかがわれたとき、私は「どの場面が変わってきましたか」とお返しするようにしています。

階段で足がまっすぐ出た日、お風呂で背中に手が届いた日、朝の支度が早く済んだ日。どこまで改善したかは、この日付の側に出てきます。

次に会えた日に、この3つを見てみませんか。ご本人より、ご家族のほうが先に気づいていることがよくあります。

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