今回はお風呂について、お話しさせていただきます。
夏のあいだ、シャワーだけで済ませていた方が多い時期でした。朝晩が涼しくなってくると、湯船に戻りたくなりますね。
お風呂の様子だけは、電話ごしには分かりません。この時期になると「湯船には入れているのだろうか」というご相談をよくいただきます。
またぐ瞬間が、いちばん心細い場面です
浴槽の出入りで難しいのは、体を洗う場面ではありません。片方の足を持ち上げて、ふちを越える瞬間です。
体を支える足が1本になる時間が、ここで生まれます。その時間が長いほど、体は揺れます。
訪問の現場でよくあるのは、この数秒だけを何度も練習したいというご希望です。
立ってまたぎたくなる気持ちは、少し我慢しましょう
浴槽の前に立つと、そのまま足を上げたくなります。壁や手すりにつかまれば、立ったままでまたげる方もいらっしゃいます。
立ったままだと、支えが足だけになる時間ができます。手すりの位置が体に合わない浴室では、つかまる先が見つからないこともあるのですね。
立ちたくなる気持ちを我慢して座ると、安全に運べるのですね。私は、いつもそうお伝えしています。
浴槽のふちに、いったん腰を下ろしましょう
座ってまたぐ方法は、浴槽のふちに腰かけるところから始まります。お尻をふちにつけたまま、片足ずつ中へ入れていきます。
お尻がふちに乗っているあいだは、体を支える場所が増えます。足が1本になる時間が、そのぶん短くなるのですね。
入るときは、麻痺していない側の足から入れます。中へ入ったら向きを変えて、湯船に座ります。

出るときは、支えてもらった足から出しましょう
出る順番は、入るときと逆になります。ご家族に支えていただいた足を先に外へ出して、いったんふちに座ります。
座ってから、残った足をまたいで出します。座る場所をひとつ挟むだけで、立ったままの時間が消えます。
ふちに腰かけたら、麻痺のある側へ寄りましょう
ふちに腰かけたとき、意外と効いてくるのが座る位置です。麻痺のある側へ、体ごと寄っていただきます。
私は「あと50cm」「あと30cm」と声をかけながら、最後は10cmまで詰めていただきます。ここまで寄らないと、反対の足を通すすき間が作れません。
ふちに座ったまま、少しずつずれるだけです。この一手間で、またぐ足の高さが変わります。
裸で濡れていると、つかむものがありません
廊下や居間で体が傾いたときは、とっさに家具や服をつかめます。浴室では、そのどちらも当てにできません。
体も床も濡れていますし、着ているものもありません。手が滑る前提で順番を決めておくほうが、心づもりができます。
装具を外すと、踏ん張りが効かなくなります
お風呂では、装具を外すことが基本です。ふだん装具で支えている足首が、その時間だけ素の状態に戻ります。
ただし、プラスチック製の装具は、浴室で使うことがあります。
装具を外してまたぐと、思ったより踏ん張りが効きません。またぐ瞬間がいちばん難しくなるのは、このためです。
服を着たまま、一度試して撮ってみましょう
ご本人の中にある動きの感覚と、実際の動きは、ずれていることがあります。またぐ足の高さは、そのずれが出やすい動作です。
お湯を張る前に、ふだんの服のまま同じ動作を試してみます。この形なら、動画に残しても気兼ねがありません。
装具を外した状態でどこまで動けるかも、ここで分かります。
撮った映像を一緒に見ると「思ったより足が上がっていない」と、ご本人のほうから言葉が出てきます。人から言われるより、ずっと強く残るのですね。
浴槽の出入りは、3つの方向から考えましょう
1つ目は、ここまでお伝えしてきた動作の工夫です。2つ目は道具で、浴槽のふちに渡すバスボード、洗い場のシャワーチェア、段差を調整するすのこ、浴槽での立ち座りを楽にする浴槽台などがあります。
3つ目は機械です。体ごと持ち上げるリフトを使っている浴室もあります。
合うものは、浴室の作りとご本人の動きで変わります。担当の理学療法士に相談してみてください。
難しい日は、シャワーで済ませて大丈夫です
練習を重ねても、その日の体調で越えられない日があります。無理に湯船へ入る日を作らなくて大丈夫ですよ。
浴室の椅子に座ったまま、シャワーをかけて拭き取る。それで一日は十分に成り立ちます。
お風呂で苦しい思いをするより、暮らしを楽しむほうが先です。私は、そちらを優先していただくようお願いしています。
装具がゆるくなったのは、悪い知らせではありません
歩く量が増えてくると、足のむくみが引いてきます。むくんだ足に合わせて作った装具は、そのぶんゆるく感じます。
ゆるくなったと聞くと、心配になりますね。体の側で起きているのは、血のめぐりが動き出した変化です。
サイズの調整は、義肢装具士さんに相談しましょう。
電話では、お風呂の話も聞いてみましょう

ご本人から、入浴のことをわざわざ報告してくることは、あまりありません。
「お風呂、どうしてる?」。この一言で、シャワーだけの日が続いていると分かる場合があります。
湯船に入りたいという願いは、ご本人の中に残っていることが多いのですね。
お風呂は、外から見えません。そのぶん相談に上がりにくく、後回しになりやすい場面です。
なかなか目立たない、それでいて毎日に効いてくる時間です。
「湯船は、またぐところで止まっているようです」。この一行を送ってみてください。
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