「腰が痛いって言ってた」。離れて暮らしていると、体の様子はこういう短い一行で届きます。
痛みのご相談は、脳卒中のあとでいちばん多くうかがいます。
今回お伝えしたいのは、痛む場所と原因のある場所は違うことがある、という見方です。
痛いと聞いたら、どちらの側かをたずねてみましょう
痛いと聞けば、湿布を送ったり、近所で揉んでもらえるところを探したりします。私が家族の立場でも、同じことをすると思います。
そこにひとつだけ足していただきたい言葉があります。「どっちの側が痛いの?」の一行です。
麻痺している側なのか、麻痺していない側なのか。それが分かるだけで、こちらの見る場所が変わります。
麻痺していない側が痛むのは、体の半分を助けてきたからです
多いのは、麻痺していない側の痛みです。腰と膝がいちばん多く、次に杖を持つ側の肩と肘のまわりです。
体の半分が思うように動かないぶん、もう半分がよく働きます。助けようとして出る動きなので、負担はそちらへ集まります。
麻痺側の突っ張りが強い日は、そちらに体重をかけきれません。そのぶん、麻痺していない側の足が踏ん張ることになります。
痛いところを揉むだけでは、この頼りきりの形そのものは変化しません。体の使い方のほうから、少しずつ変えていくことになります。
出やすいのは、発症から1年、2年のあいだです
この痛みは、発症してから1年から2年のあいだに出ることが多いところです。麻痺している側は、まだ無意識には信じきれない時期だからです。
3年、4年と経つうちに、新しい自分の体との付き合い方が上手になってきます。動きに対して出ていた痛みは、そこから減っていくことが多いのですね。
今が痛いから、この先もずっと痛いままとは限りません。ここは知っておいていただきたいところです。
麻痺している側が痛むときは、届いている道がある証拠でもあります
麻痺している側が痛い、とおっしゃる方もいらっしゃいます。動かしにくい側なのに痛みは感じる、と不思議に思われるところです。
痛みを感じる道は、体の中にいくつもあります。痛いと感じられるのは、その中に働いている道が残っているということでもあります。
突っ張りが強い日のために、自分でほどける形を持っておきましょう
麻痺している側の痛みは、体の突っ張りが強く出たときにも起こります。同じ形のまま一日を過ごすと、そこに痛みが出てきます。
自分で伸ばせる身のこなしをいくつか持っていると、その日のうちに楽になります。リハビリの時間に、担当の理学療法士から教わっておく形が確実です。
急に寒くなる時期は、突っ張りが強まって痛みが増えます。
体のほうが悪くなったのではありません。気候の話であることも少なくありません。
入院していたころから続いている、刺すような痛みもあります
脳のどこにダメージが残ったかによって、信号のやりとりが誤作動することがあります。針を刺すような、ビリビリするような痛みで、視床痛と呼ばれています。
出てくるのは、発症してすぐの時期や回復期の入院中です。家に戻られてから新しく始まることは、ほとんどありません。
いま痛いとおっしゃる方は、入院しているころからその痛みと過ごしてこられた方です。ご家族の見ていないところで、長く辛い思いをされてきました。
湿布や揉むことでは、この痛みの出どころには届きません。「入院していたときから、ずっと痛かったんだね」と知っていてくださることが、いちばん届きます。
脳卒中の前から続いている痛みは、別の道すじで診てもらいましょう
脳卒中になる前から腰痛を抱えていた方、脊柱管狭窄症などをお持ちの方もいらっしゃいます。その痛みは、脳卒中とは別のところで続いています。
整形外科での治療が必要な場合があります。リハビリの中だけで抱えず、医療機関に相談してみましょう。
杖を持つ側の肩と肘のまわりは、握る力で痛みが出やすくなります
杖を使ったあとに、麻痺していない側の肩や肘のまわりが痛くなります。よくうかがう話です。
歩いているときの指先を見ていただくと、関節が白くなるほど力が入っていることがあります。転ぶのが怖ければ、どなたでもこうなります。
強く握ると、その緊張は腕から肩、首まで広がります。麻痺側の突っ張りが強く出る一因にもなるところです。
杖は握らずに、手のひらで受け止めます。グリップの上に手のひらを乗せて、指は倒れないように軽く添えるだけで足ります。
体の使い方を身につける時期が先送りになります
揉んでもらえば、その日は楽になります。ただ、そこは対症療法にあたります。
楽になるほうへ流れると、体の使い方を身につける時期が先送りになります。そのまま逃すこともあります。
リハビリの時間には、麻痺している側もなるべく使っていける動き方を練習します。使える範囲が広がると、助け役に回っていた側の負担は軽くなっていきます。
ご家族から伝えていただきたいのは、見ていた景色です
運動や練習をご家族が引き受ける必要はありません。お願いしたいのは、気づいたことをそのまま渡していただくことです。
どちらの側が痛いのか。いつごろから痛いのか。
一日のどの時間に痛むのか、そのころ急に寒くなったかどうか。この4つが揃うと、見当のつけ方が変わります。
痛みの話は、そのまま届けてみましょう
痛みは、体からの合図です。どこが痛いかだけでなく、どちらの側が、いつから痛むのかまで揃うと、次の一手が決まります。
「良い方の腰が痛いと言っています」。この一行だけでも、いつも体をみてくれている理学療法士へ届けてみましょう。
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