「夕方になると、急に足元が危なくなるみたい」。離れて暮らすご家族から、こういうお話をうかがうことがあります。

昼のうちは廊下をすっと歩いていた方が、日が落ちるころには壁に手をつく。今日は歩きすぎて疲れが出たのだろう、と受けとるのが自然なところです。

今回は、その夕方のふらつきを別の角度から見てみたいと思います。

夕方のふらつきは、体の力ではなく光の量の話かもしれません

人は3つの情報を組み合わせて立っています。足の裏の感覚、耳の奥にある三半規管、そして目から入る景色です。

麻痺や感覚の障害があると、足の裏から脳へ届く情報が減ります。すると脳は、目から入る景色に重みを置いてバランスを取るようになります。

専門的には、視覚依存度が高まると言います。目で見た景色が、足元の頼りになっている状態です。

頼りにしている目が、薄暗い廊下では十分に働けません。どこに足をついているのか、体が傾いているのかが分からなくなり、そこで足がすくみます。

同じ人が、昼と夜で別人のように歩きます

訪問の現場でも、この差はよく見かけます。日中の練習ではしっかり歩けていた方が、夜のトイレでは壁を伝ってそろそろと進みます。

歩く力が後戻りしたのではありません。脳に届く情報の量が、昼と夜で違うだけです。

リハビリの成果はちゃんと残っています。手元の材料が足りていない状態、と受けとってみましょう。

体を変える前に、環境を1つ整えてみましょう

私は、環境のデバッグという言い方をしています。デバッグは、うまくいかない原因を1つ取り除くことです。

ご本人の体を鍛え直すより先に、おうちの側をほんの少し整える。ここから始められる場面は、思ったよりたくさんあります。

一番効きやすいのは、足元の明かりです。天井の電気を一晩つけておく必要はありません。

コンセントに挿すセンサーライトが扱いやすいです

人が通るとパッと足元を照らすタイプが、暮らしの中で扱いやすいです。ホームセンターやネットで手に入ります。

寝室からトイレまでの廊下、洗面所の入り口、曲がり角に置いてみましょう。足元が明るくなると、目から入る情報が一気に増えます。

脳が安心を取り戻すと、すくんでいた足がすっと前に出ます。転ぶかもしれないという怖さが薄れ、姿勢も起きてきて、突っ張りもやわらぎます。

日中に近い歩きが、夜にも戻ってきます。

ポータブルトイレを置く前に、試せることがあります

夜の移動が危ないので部屋にポータブルトイレを置こうか、というご相談は毎年いただきます。眠れない夜を重ねたご家族の、当然のご心配です。

置く前に、廊下の明かりを整える順番をおすすめしています。明るくなるだけで、夜もトイレまで歩ける方はいらっしゃいます。

夜に1往復歩く場面が残るかどうかは、その先の脚力に効いてきます。まず明かり、次に手すり、最後にポータブルトイレ、という順で考えてみましょう。

声のかけ方も、明かりと同じくらい効きます

夕方にふらついたご本人は、昼と同じつもりで足を出して、思ったところに足が届かない体験をしています。理由が分からないままだと、自分の体を責める方向に向かいます。

そこで役に立つのは、暗いね、明かりをつけようか、の一言です。原因をご本人の側に置かない言い方です。

ご家族が明かりのスイッチを1つ用意してくれることは、ご本人にとって、うまくいかない日を責められない安心につながります。

夜の移動は、怖い思いをせずに終えられたら100点です

私がリハビリの目安にしているのは、心が折れずに終えられたら100点、体が転んでも大怪我さえしなければよい、という線です。

夜のトイレも同じ考え方で見ています。どれだけきれいに歩けたかよりも、怖い思いをせずに戻ってこられたかを大事にしています。

怖さが薄れた夜が続くと、翌朝の1歩目が軽くなります。夜の安心は、日中の練習にそのまま乗ってきます。

夕方のふらつきは、記録すると相談の材料になります

何時ごろに出るのか、家のどの場所で出るのか、明かりをつけたときはどうだったのか。この3つが揃うと、原因の見当がつきます。

ご家族が練習を引き受ける必要はありません。気づいた1行をそのまま、次の訪問のときにいつもの理学療法士へ渡していただけると、その場で次の一手が決まります。

明かりを足すのも、立派なリハビリの1つです

夕方のふらつきは、力が落ちた知らせのような顔で届きます。ふたを開けると、明るさが足りていないだけ、という場面が多くあります。

体を責めるより先に、廊下の明かりを1つ増やしてみましょう。それで足が前に出るなら、原因は体ではなく暗さのほうにありました。

リハビリは体を鍛えるだけのものではありません。自分がいちばん動きやすい家を自分の手で作っていくことも、立派なリハビリの1つです。

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